婚約破棄,破棄した婚約者の母親の責任

徳島地裁昭和57年6月2日判決(内容は簡略にしています。)は,婚約を不当に破棄した婚約者の母親にも法的責任を認めました。

事実経過

女性Xと男性Y(母親と二人暮らし)は,1月に紹介されて2月に正式な見合いと結納を済ませ,挙式は5月5日と決まりました。YはXに対し,4月19日には,嫁入り道具として勉強机を要求し,27日にはズボンプレッサーやXが用意していた小型テレビと普通自動車ではなく大型テレビと軽自動車を持参するように指示したりしました。Xは,結婚写真の前写しをし,新婚旅行のためのパスポートを申請し,勤務先を退職し,披露宴の招待状を発送するなどの準備をしました。4月29日が道具入れの日だったのですが,その前日28日に突然,Yが仲人を通じて,電話一本で,婚約を破棄すると言ってきました。

婚約破棄の正当理由

Xは,婚約の不当破棄を理由に,Yとその母親を訴えました。 Yら(Yと母親)は,Xには常識が欠け,家庭的な躾けができておらず,ルーズで,責任感に乏しいことが婚約後に判明した,また,Xの体形があまりにも細く劣等であってYがXに対する愛情を喪失した,だから婚約破棄には正当理由があると主張しました。 これに対し裁判所は,婚約破棄をする前日まで婚姻意思の成立していることを誰もが認めるであろうような態度で振る舞った者が,相手方の性格一般をあげつらったり,いわんやその容姿に関する不満をことあげしても,これをもって婚約破棄の正当事由となし得るものとは到底解し得られない,と被告Yらの主張を一蹴しました。

婚約者の母親の法的責任

婚約の不当破棄はYが行ったものですから責任の中心人物はYですが,XはYの母親もその不法行為に加担したと主張していました。裁判所はYの母親についても不法行為責任を認めました。 裁判所は,YとYの母親は結納後に婚姻について消極的態度に変じたものであるが,Yの母親の態度が強硬であったのに対し,Yの態度は優柔不断なものであって4月28日朝までは結婚式を実際にやめるまでの決意には至っていなかった。仮にYの母親がYに対し,かくまで反対の意思を強調することがなかったならば, Yにおいて本件婚約を破棄することなく婚姻していたものというべきである。Yの母親が,Yに対して婚約反対を働きかけ,原告の欠点を指摘し,4月28日に仲人に電話しYと共に婚約解消を依頼した行為は一体となって,Yの婚約破棄の決意を生ぜしめ,決意の形成に寄与したものであり,共同不法行為者として責任を負うと判断したのです。

法律問題

婚約は結婚を約束するという契約ですから,本来,それを破った責任は契約した当事者(婚約した男女のどちらか)だけにあるはずです。婚約者の親は契約者本人ではありませんから,契約を不履行にした責任は負わないのが原則です。婚約者の母親は債務者ではないので債務不履行責任は認めがたく,共同不法行為責任を認めたのでしょう。

この事件では嫁入り道具の費用,新婚旅行費用,被告らに対する手土産関係費,勤務先退職による逸失利益,慰謝料等が損害として主張され,裁判所は詳細に判断しており,その判断手法は参考になるものです。