婚約破棄の裁判例(1)

既婚者との婚約が法的に保護されないとされた例

妻子のある39歳男性(被告)が、37歳女性(原告)に対し、「もう家庭は不和であり離婚協議中で君と結婚したいと思っている。」と何度もメールし、性的関係を続け、帰省先に同行するなどしていました。男性が仕事のために妻と渡米した後、女性は仕事を辞めアメリカに部屋を借りて住むまでしましたが、結局、被告が離婚することはなく、原告との結婚もありませんでした。既婚ではあるけれども離婚して結婚したいという約束を信じた女性が、その後、いつまでたっても離婚しない相手の男性を訴えたという事件です(平成25年4月17日東京地裁判決)。

37歳女性は、男性に対して裁判を起こし、婚約破棄、内縁関係の破棄、虚偽の言辞による貞操権の侵害などを主張して慰謝料300万円を請求しました。

婚約破棄に関する裁判所の判断

婚約破棄・内縁関係破棄が不法行為になるか このうち婚約破棄と内縁関係の破棄という主張に対して裁判所は、「原告は、被告の行為が婚約破棄、内縁関係の破棄の不法行為を構成すると主張するが、上記のとおり、客観的に、被告と妻との婚姻関係が事実上破綻していた事実を認めるに足りる的確な証拠はないのであって、婚姻中の被告と原告との間で、婚姻予約が成立したとも法的に保護に値する内縁関係が形成されたとも認めることはできない。上記原告の主張は採用できない。」としました。

つまり、この事例では、婚約の成立も法的に保護されるべき内縁関係の成立も認められないので、婚約破棄や内縁の破棄を理由とする損害賠償責任は認められないというのです。既婚者である者との結婚約束は、法的に保護される婚約や内縁関係としては認められない場合があるということになります。

結婚すると嘘をついて交際していた点についての判断

離婚して結婚するという嘘をついていた点 虚偽の言辞を用いて原告との性交渉を継続したことが不法行為を構成するという原告の主張について、裁判所は 「原告、婚姻中の被告と不貞関係に至ったことについては、そのこと自体法的保護に値せず、被告の妻Cに対する不法行為を構成することはいうまでもない。また、原告は、本件当時30歳代後半の年齢の女性であり、安易に被告の言動を信じ、 長期に渡って被告との不貞関係を継続したことは、相当程度の落ち度がある。しかしながら、・・・被告は、原告との交際当初から、原告に対し、被告がCとの離婚協議をしているという虚偽の事実や、離婚を成立させた後には原告度婚姻する意思があることを繰り返し伝え、妊娠を希望する原告との間で避妊することなく性交渉を行い、被告の虚偽の言辞により、独身女性である原告に被告と婚姻して被告との間の子供を養育することかできるという期待を抱かせ続けながら、 性交渉を伴う原告との高裁を継続したものと認めることが出来る・・・このような被告の行為自体、虚偽の事実を告げて原告を欺罔し真実に基づく意思決定を阻害して多大な精神的苦痛を与えた行為として違法の評価を免れず、原告に対する不法行為を構成するとして、慰謝料70万円を認めました。

被告は、原告の請求は不貞行為の一方当事者から他方当事者に対する不貞行為解消に当たっての責任追及だから公序良俗に反すると主張しましたが、それに対して裁判所は、虚偽の事実を告げて原告を欺罔した被告の行為自体が違法性を帯びるのであると排斥しました。

暴力に対する慰謝料

この事件では被告が原告に暴力をふるい、腓骨剥離骨折、靱帯損傷等の傷害を負っていたのでそれに対する慰謝料として金50万円を認めました。

既婚の方と結婚の約束をしても、それは離婚が前提の約束になるので普通の婚約と同様には保護されない可能性もありますし、しかも肉体関係を結ぶと反対に正妻に対する不貞行為になる危険もあります。 とにかく既婚者との婚約は通常の婚約とは違うので注意が必要だということです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です