離婚する意思とは,生保受給のための離婚の効力?

生活保護受給を継続するためにされた離婚届は有効か

最高裁昭和57年3月26日判決は,生活保護の受給を継続するためになされた離婚届の効力について判断しました。

ある夫婦は,夫が病気になって仕事が出来なくなってしまったため生活保護を受けていました。しかし,妻が働いていると妻の収入が生活保護から差し引かれてしまうことを知りました。そこで,妻が働きながら生活保護を全額そのまま受け取り続けるために,夫と妻は協議離婚をしました。

夫が亡くなった後,妻が離婚の無効を求めて裁判を起こしました。この事件では,離婚届を役所に提出して法律上は離婚した後も,夫婦としての生活は維持されていて,離婚届は生活保護を不正に受給する目的で出されたものでした。この様に方便として離婚届を出した場合の離婚の効力が問題になりました。 協議離婚が成立するためには,離婚届を出すことの他に,「離婚する意思」が必要ですが,「離婚する意思」の内容については学説が別れています。

離婚する意思の内容

この最高裁判決は,「離婚の届出が,法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであって,本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は,正当として是認できる。」と判断しました。『法律上の婚姻関係を解消する意思』があるかどうか,が裁判所の認めた基準であるということになります。

この事件では,離婚届を役所に提出した後も,妻は夫の借金を払い続け,夫の遺骨を引き取り法要も主催していました。事実上の夫婦としての実態はあったようでしたが,その様な事実上の夫婦を続ける意思は問題にせず,離婚届を出して『法律上の婚姻関係を解消する意思』があったからその離婚は有効であると判断したのです。

離婚届を夫婦で仮装する例としては,この様な生活保護の不正受給目的の他に, 配偶者が多額の債務を抱えていてその債権者からの強制執行を免れるために離婚する場合などもあります。こういう仮装離婚は,利己的な利益を得るための脱法的な動機に基づいています。法律上の離婚をすることによって本来は受けることができない生活保護を受け取ったり,夫の財産隠しを手助けするというわけです。

こういう利己的な目的のために協議離婚(離婚届の提出)という方法をとった者が,後になって「いや,あれは仮装のもので真意ではなかった。だから無効であると認めて欲しい。」と言って新たな別の利益を得ようとしても,通常,この様に制度を悪用する行為をした者に対して裁判所は厳しく見ることが多いものです。仮装離婚をするならそれに伴う不利益も覚悟しておくことが必要です。

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