東京高裁令和2年3月4日決定(判例時報2480号)
養子縁組をした親は第一次的に扶養義務を負う
離婚するときには未成年者の養育費を決めます。一般的には母親が監護親となることが多いので、別居親となる父親が養育費を払うことが多くなります。養育費の根拠は未成年者(就労できない者)に対する扶養義務ですから、離婚するときに決めた養育費は大体の場合は成年に達するまで(20歳か18歳)か大学卒業まで負担します。
しかし、別れた母親が再婚し、再婚相手が未成年者と養子縁組した場合は、その養子縁組した養親が第一次的に未成年者を扶養する義務を負うことになります。したがって、これまで養育費を払ってきた実の父親の養育費支払義務は免除されます。これはほぼ確定した家庭裁判所実務の扱いとなります。
養育費支払義務が免除されるのはいつからか
では、実の父親が養育費支払義務を免除されるのはいつからでしょうか。
実の親が養育費支払義務を免除される根拠が、再婚相手と未成年者が養子縁組をしたという事情変更によるので、原則として、養子縁組の時期から(遡及する)ということになります。
ただし、事情変更が生じた事由が養育費の権利者側に生じたものか義務者側に生じたものかなど、諸事情を考慮して養育費支払義務免除の遡及効を制限すべき事由があるかどうかを判断して免除される時期を定める、したがって、場合によっては養子縁組のときまで遡及されない場合もあります。
今回もそういう事例の一つとなります。判決は読みやすくするため文章を変えています。
東京高裁決定
(養育費支払義務と再婚の問題についての判断です)
両親の離婚後、親権者である一方の親が再婚伴い、その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合、当該子の扶養義務は、第一次的には親権者及び養親となった再婚相手が負うべきものであり、親権者及び養親がその資力の点で十分に扶養義務を履行できないときに限り、第二次的に実親が負担すべきことになると解される。
・・・によれば、元夫と元妻は、未成年者らの親権者を元妻と定めて離婚したところ、未成年者らは、元妻の再婚に伴い、再婚相手と平成27年12月15日に養子縁組をしたのであるから、同縁組により、未成年者の扶養義務は、第一次的に元妻と再婚相手らにおいて負うべきこととなったというべきである。
そして、再婚相手の平成30年の確定申告における課税所得が約3870万円であることに照らすと、元妻と再婚相手らがその資力の点で未成年者らに対し十分に扶養義務を履行できない状況にあるとは言い難い。従って、本件合意に基づく元夫の養育費支払義務についてはこれを見直して、支払義務がないものと変更することが相当である。
・・・
(ここからは養育費を免除する時期についての判断です)
一度合意された養育費を変更する場合に、その始期をいつとすべきかは、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ本件の具体的事情に応じて、以下この点につき検討する。
・・・
元夫は、調停申立の前月である平成31年4月まで合意に基づいた養育費を支払っており、養子縁組の翌月以降の支払済み養育費の合計は720万円にのぼるうえ、長女の留学に伴う授業料も払っている。
このような状況の下で、既に支払われて費消された過去の養育費につきその法的根拠を失わせて多額の返還義務を生じさせることは、元妻らに不測の損害を被らせるものであるといわざるをえない。
また、元夫は、元妻から、平成27年11月22日の再婚後間もなくの同月24日に、再婚した旨と、未成年者らと再婚相手が養子縁組を行うつもりであるとの報告を受けている。
したがって、これにより元夫は、以後未成年者らにつき養子縁組がされる可能性があることを認識できたといえ、自ら調査することにより同養子縁組の有無を確認することか可能な状況にあったというべきである。
・・・
したがって、元夫は、元妻の再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立を行うことなく、3年以上にもわたって720万円にも上る養育費を支払続けたわけであるから、本件においては、むしろ元夫は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に本件調停を申し立てるまでは、未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払続けたものと評価することも可能といえる。
以上の事情を総合的に考慮すれば、元夫の養育費支払義務がないものと変更する始期については、本件調停申立月である令和元年5月とすることが相当である。
解説
このケースは双方とも高額所得者でゆとりのある人の特殊な事例ともみられますが、養育費を払う親にとって重要なことは、監護親が再婚したときは養子縁組があったかどうかを確認すること、そして養子縁組されているときはすぐに対応することです。そうすれば遡及効が制限されることを心配する必要がありません。