「不貞行為に対する慰謝料」と「離婚に対する慰謝料」の違い

平成31年2月19日最高裁判決(判例時報2420号)

この判例は前にも紹介したと思いますが誤解されやすいので少し解説を加えて説明します。
大事なことはこの判例では「不貞行為に対する慰謝料」と「離婚に対する慰謝料」が区別されているということです。そして、この判例は「離婚に対する慰謝料」のについての判断なのです。この点が重要です。
慰謝料というのは精神的苦痛に対する損害賠償請求権のことです。配偶者が不貞行為をした場合、不貞をされた方の配偶者は、不貞相手に対して「不貞行為に対する慰謝料」を請求することができます。配偶者が他の人と性的関係になったことで自分が精神的苦痛を受けたのでその賠償を請求するということです。この点は当然のことです。不貞行為をされたとき普通はこの慰謝料を考えます。
この判例の事件では、元夫は平成22年5月に元妻と男との不貞関係を知ったのでそこから「不貞行為に対する慰謝料請求権」の消滅時効(3年間)がスタートし、平成27年に元夫は不貞相手に対して訴訟提起したので、その時点では既に「不貞行為に対する慰謝料請求権」は3年間の時効により消滅していました。
そのため、元夫は「不貞行為に対する慰謝料」請求することができず、「離婚に対する慰謝料」だと主張せざるをえなかったのです(離婚は平成27年でした)。つまり、不貞のために離婚することになったのだからこの「離婚によって受けた精神的苦痛」を賠償して欲しいという主張です。
このような事情から、裁判所は、不貞行為をした者に対して「離婚に対する慰謝料」を請求できるか?という法的論点に対して判断したのです。
この事件は不貞行為発覚から3年以上経過してから不法行為による損害賠償請求をしたという少し特殊な事件です。通常は不貞行為を知ったらすぐに腹が立つので3年以内に「不貞行為に対する慰謝料」(配偶者が他の人と性的関係をもったので傷ついた、ということ)を請求するし、その間に離婚になった場合は慰謝料の金額を増やす方向に働く事情の一つになるだけなのであまり意識する必要もありません。
ただし、この事件の様に不貞行為を知ってから3年経過した後に不貞行為の相手に対して損害賠償を請求したいと思ったときはこの判例により否定されてしまいます。