同性愛が不貞行為になった判決例

配偶者が同性愛者と性的行為・慰謝料請求が認められた例

東京地裁令和3年2月16日判決

ある夫婦の妻が別の女性と性的行為をしたので、夫が不貞相手となった女性に対して慰謝料を請求したという事件です。同性愛が不貞行為になるかということが争点になりました。事実は簡略化しているので正確ではありません。

事案

夫が32歳のころ、妻が29歳のころに結婚しました。裁判の当時は39歳と36歳でした。この判決文はとても分かりにくいので正確な事実関係を書くことができませんが、問題になった不貞行為というのは、妻がインターネットの女性どうしの出会い系サイトで被告女性と知り合い、外出、食事、個室居酒屋で首筋にキス、インターネットカフェで胸や下半身をなめたり陰部を直接触るなどした。ラブホテルで性的行為をした。
夫(原告)は被告(妻の相手をした女性)に対し、同性愛に偏見は持っていない、被告と妻が仲良くつきあうのであればとくに問題はないと考えている、被告が妻と肉体関係を持ったために原告の家庭はめちゃくちゃになった、被告にはきちんと妻と向き合って欲しかったのに、それをせずにすぐに次の同性のパートナーを作ったことを非難するメールを送った。

判決

裁判所は同性間の性的な行為によって不法行為がするかどうかという点について、
次のように言っています。
「不貞行為とは、端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるが、これに限らず、婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり、必ずしも性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず、夫婦共同生活を破壊しうるような性行為類似行為が存在すれば、これに該当するものと解するのが相当である。
(注 ここまでで不貞行為というものの概念を定義しています。)
そして、同性同士の間で性行為あるいはその類似行為が行われた結果として、既存の夫婦共同生活が離婚の危機にさらされたり、離婚に至らないまでも形骸化するなど、婚姻共同生活の平穏が害される自体もまた想定されるところである。
(注 同性間の性的行為も先に定義した不法行為の定義に当てはまると言っています。)
本件各行為は、被告が妻の意思に反して行ったものとまでは認められないが、いずれも・・本件行為と同様の態様で行われたとのことであるから、原告と妻との婚姻共同生活の平穏を害しかねない性行為類似行為であるいとえ、不貞行為に該当する。
(注 前の2段落を当てはめた結論になります。)
なお、原告は、妻が同性愛について関心を有しており、同性である被告と親しく付き合うこと自体については許容していたが、本件各行為のような性的行為を行うことまでは許容していなかった以上、被告が妻に対し本件各行為を行ったことについて、原告に対する不法行為がする。
(注 原告のメールに現れる態度について言及しています。

裁判所が認めた損害額

裁判所は原告(夫)に認められる慰謝料額を10万円、そして弁護士費用相当額を1万円だけ認めました。

解説

原告が被告に対して請求した慰謝料は500万円でした。慰謝料500万円に弁護士費用として50万円の合計550万円を請求する裁判でした。なお、ここでいう弁護士費用というのは実際に弁護士に支払った金額ではありません。交通事故の裁判の判決で、不法行為に基づく損害額の1割り程度を必要な弁護士費用として認めることが多いので1割りを請求したのです。実際の弁護士費用はもっとかかります。
不貞行為の慰謝料というと普通はとりあえず100万円、とくに事情があれば50万円もあるかという感じすが、この事件では10万円ととても低くなっています。ただ、事実関係が少し変わっているので、この慰謝料の金額を一般的なものと考えることはできません。この事件だけの特殊な事情に基づく金額だと思います。判決文に現れた事実だけではよく分からないのです。
しかし、同性愛が不貞行為になることを認めた下級審判決の一つとしては意義があります。

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