姑に対する慰謝料請求はできるか

姑に対する慰謝料請求

離婚は夫婦間のすれ違いだけでなく配偶者の家族との関係が離婚に大きく影響している場合があります。嫁・姑問題が典型的ですが、姑の嫁に対する心ない言動に対して慰謝料請求を認めた判決があります。古い判決ですが簡単に内容を紹介します(名古屋地裁一宮支部昭和53年5月26日判決)。

姑の嫌がらせ

裁判所は次の様な事実を認定しました。昭和47年、妻は家内工業に従事する夫の家に同居しましたが、姑から「着物を見たけど何も持っていない」「化粧品は何も持っていない、鼻紙や洗剤さえも家の物を使っている」「どんな出来の悪い子供でも可愛いが嫁は憎い、来たのがそそうだ」「嫁は食べろと言われても遠慮するもんだ」「あんたは太っていて大丈夫と思ったが豚肥で取り柄がない」「実家へ行くときは伺いをたてるものだ」「実家はまだ嫁入り道具を買った借金が残っている」「小遣いを実家に持って行っている」などと言われました。姑は親族に対しても「嫁はブスッとしている、可愛げのない嫁だ」と言い、嫁の両親を呼びつけると「茶碗は悪し、地味な女で新嫁らしくない、相返答も出来ない、何一つとして取り柄のない悪い嫁だ」と言った。「嫁は朝早く起きて働くものだ」と言われたので、朝6時から三食の時間を除き午後11時ころまで働いた。そのため指が腫れて出血したり物がつかめないようになった。姑は土間に血が落ちていたのを「嫁が月経の血を落としている、新しい家を汚すつもりか」と叱言を浴びせ親族にも吹聴した。その後もさらにいくつもの紛争を繰り返して、結局、夫婦の双方から離婚裁判を起こすにいたりました。

裁判所の判断

裁判所は判決の中で、姑は嫁に対し悪罵、干渉を行い、夫もこれを抑制するどころか同調して妻(嫁)の努力を認めず反抗すると直ちにその両親を呼びつけて親族ともども一方的に非難していたもので、このような事情のもとでは嫁が家庭生活の中で陽気になりえようはずも無く、その後の別居にいたる経過をみると、夫と姑のこの所為は婚姻を継続しがたい重大な事由にあたると認定しました。そして、夫と姑に対し、嫁(妻)に200万円の慰謝料を支払うよう判決しました。 このように、配偶者の親のひどい言動によって精神的苦痛を与えられた場合は慰謝料請求権が発生することになります。ただ、離婚事件とは別に配偶者の親だけを訴える裁判を起こすのも面倒ですから、離婚事件において、配偶者がその親と共同して行った行為が婚姻を継続しがたい重大な事由にあたると主張するのが現実的かもしれません。

配偶者から自分の親族が侮辱された場合

配偶者から自分の親族が侮辱されたとき、たとえば、夫が妻の親に対して大きな侮辱を与えたような場合にも慰謝料請求が問題になります。ただ、この場合は被害を受けた親が原告となる事件になりますが、離婚の裁判は夫婦間の裁判ですから妻の親が原告となることはありません。子供の離婚だけでも大変なので離婚と同時に裁判を起こされることも少ないと思います。 しかし、離婚事件の中で、夫が妻の親に対して加えた侮辱に言及された判決もあります。

妻の家族に対する中傷

その事件で夫は、妻が無条件の離婚に応じないことから、昼夜の別なく執拗に、妻方に電話をして妻やその両親や兄弟に対する悪口と侮辱的結言を繰り返し、妻らの知人や勤務先に電話や手紙で中傷し、妻の母「○○しま」に対し「○○死魔」とした葉書を送付して極度に困惑させました。また、自らの印鑑を妻に窃取されたと虚偽の主張をして訴訟を提起し、その他にも妻の両親らを相手取って言いがかりとしか見えない訴訟を提起しました。

その夫は、この他にも妻が育てていた生まれたばかりの長男が病弱であったのに健康保険証の交付に協力しなかったり、そのうち別の女性と同棲を始めて子供をもうけるまでしていました。

裁判所の判断

裁判所は、離婚するに至ったことについて、夫は夫婦の義務に反する遺棄、不貞の行為並びに婚姻を継続しがたい重大な事由を作出した不法行為の責を免れないとして、慰謝料500万円を認めました。昭和54年の判決にしては高額な慰謝料ではないかと思います。

嫁・姑問題は昔から続く問題で、おそらくこれからも続くでしょう。慰謝料の問題になる前に、「子供可愛い。嫁、憎い」という親の過干渉をやめるべきです。どんなにひどい嫁だと思っても、それは息子夫婦の問題ですから一歩、退いてみましょう。夫婦間の対立に親が加わって両家の全面戦争というのでは、親が紛争を拡大させていることになってしまいます。親の役割は紛争をそれ以上拡大させないことです。

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