不貞した者からの婚姻費用請求

離婚前の夫婦が別居したときは婚姻費用(生活費)請求の問題が発生します。
なかには不貞行為をしたうえで子どもを連れて別居し、それから婚姻費用を請求してくる場合もあります。不貞行為をされて、家を出て行かれ、子どもまで連れて行かれ、そのうえお金を請求されたのでは残された配偶者も腹が立ちます。そういう場合も婚姻費用を払わなければならないのでしょうか、という問題です。
この問題については、別居に至った原因がもっぱら又は主として婚姻費用を請求する者のみにある場合には、請求する者の婚姻費用の請求は信義則に反する(または権利の濫用)として許されない、というのが裁判の通例となっています(大阪高裁平成28年3月17日、東京高裁昭和58年12月16日など)。
子どもの分は認められるので(子どもは浮気していませんから)、結局、婚姻費用ではなく養育費分だけが認められることになります。婚姻費用というのは夫婦や親子であることに基づく生活費の分担義務ですから配偶者の生活費と子どもの生活費の両方を含んでいます。しかし、浮気して別居の原因を自分で作っておきながら生活費まで要求するのは信義則に反するので浮気した配偶者の生活費請求は認めない、しかし子どもには責任がないから養育費の分は認められるということです。
具体的な例で言うと、妻が浮気したうえに子どもを連れて家を出て行った場合に、
その妻が夫に対して婚姻費用を請求しても、家裁で認められるのは子どもの養育費分だけということになります。

不貞の証拠が大切

そうなると、結局、問題は浮気の証拠を持っているかどうかになります。浮気がいくら疑わしくてもその証拠がないと家庭裁判所は「信義則違反」や「権利濫用」と認めてくれません。
平成28年の大阪高裁の例でも、

一審にあたる家裁では不貞(浮気)を認めず、高裁では浮気を認めて養育費分のみを認めました。このように同じ証拠でも判断が分かれる場合があるので、とにかく浮気の証拠を確保しておくことが大切です。
この大阪高裁の例では、夫と妻が同居した後に妻は男性講師と不貞関係に及んだと推認するのが相当であり、夫と妻が別居に至った原因は主としてもっぱら妻にあるといわざるをえない。妻は不貞関係を争うが、妻と男性講師とのソーシャルネットワークサービス上の通信内容からは、単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされていることが認められるのであって、これによれば不貞行為は十分推認されるから、妻の主張は採用できない。そうとすれば妻の夫に対する婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地から、子らの養育費相当分に限って認められるというべきである。

と認定しました。