面会交流の強制と子供の意思

10歳の子が面会交流を拒絶している場合に間接強制ができないとした事例があります(大阪高裁平成24年3月29日決定 判例時報2288号)それを紹介します。事案等は簡略にしています。

事案

夫婦は,長女が7歳,長男5歳のころに,母親が二人の子を連れて実家に戻り別居しました。別居した翌月,二人の子との面会交流を終えた帰りに長男が父と一緒に帰ると言ったことがきっかけで父親が長男だけを自宅に連れ帰りました。

母親は監護者指定・長男の引渡を求める調停を申し立てたり,引渡を求める審判や審判前の保全処分等を申し立て,保全処分審判に基づいて長男の引渡の強制執行までしましたが,父親の父母から家への立ち入りを拒否されたため直接強制ができませんでした。その後,母親が人身保護請求を申し立て,その命令が出た後に長男が母親に引き渡されました。

こういう経過があった後,父親は二人の子との面会交流を求める調停を申し立て, その事件が審判に移行し,家庭裁判所は面会交流を命じる決定を下しました(実際は母親が即時抗告したので高裁までいってやっと決着がつきました。また,双方が離婚を求めて裁判中でした。)。

その後,父親と長男との面会交流は継続して行われましたが,長女については,母親が面会交流の方法や場所について工夫して長女に働きかけても長女がかたくなにこれを拒否していました。そこで、父親が長女との面会交流を実現するために面会交流の間接強制(面会交流させないときは不履行のたびに金銭を払うという強制方法)を申し立てました。

面会交流に関する決定の内容

父親の申立を認めて家庭裁判所は次の様に詳細な命令をくだしました。

母親は父親に対し,当事者間の子の監護に関する処分の事件における決定に基づき,父親と長女を次の要領で面会させよ。 1 頻度・日時 毎月1回,第三日曜日 2 時間 第1回目ないし第6回目は午前11時から午後2時までとし,第7回目行こうは午前11時から午後5時までとする 3 引渡場所 〇〇駅改札口 ただし,母親と父親が合意した場合これを変更することができる。 4 引渡方法 母親は面会交流開始時刻に長女を引渡し場所で父親に引渡し,父親は面会交流終了時刻に長女を引渡し場所で母親に引き渡す。 5 母親、父親は,事前に相手に通知して委任した弁護士を面会交流に立ち会わせることができる。 6 母親がこの決定の告知を受けた日以降,債務を履行しないときは,父親に対し,不履行一回につき8,000円の割合による金員を支払え。

この第6項が間接強制といわれるものです。原審の家庭裁判所はこの様に長女の面会交流ができないときは,母親が父親に一回につき8,000円支払わなければならないと決めました。これに対して母親は面会交流のために努力しているとして執行抗告を行い,それに対する決定が今回の大阪高裁決定です。

大阪高裁は母親の主張を認め,父親の間接強制申立を却下しました。

大阪高裁の判断

間接強制命令を発するためには,債務者の意思のみによって実現できる債務であることが必要である。

本件において母親は長女に面会交流を働きかけているものの,長女がこれをかたくなに拒否しているため面会が実現していないことは認定のとおりである(※ 母親において多くの争訟事件の末ようやく引渡を受けた長男との面会交流が実施されていることに照らせば,母親が長女と父親との面会交流を妨げていると認めることはできない、とも認定しています)。

長女はすでに10歳であり,面会を拒む意思を強固に形成している場合,母親が面会に応じることを働きかけても限界があるといわざるをえない。本件の事情に照らせば母親に対し長女と父親との面会を実現させるためにさらなる努力を強いることは相当とはいえないし,かかる努力を強いてもそれが奏功する見込みがあるとはいえないというべきである。

そうすると本件債務名義は母親の意思のみによって実現することか不可能な債務というべきであるから,間接強制命令を発することはできないし,これを発してみても面会交流の実現に資するところはない。

実は,この大阪高裁決定の後である平成25年3月28日に最高裁の判例が出ているので,その判例とこの事件の決定との整合性がとれるのか?という問題がありますが、事例判決としての意義があります。

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