平成26年8月27大阪高裁決定(判例時報2267)
事案
父と母は平成6年に結婚し、長男、長女がいるが、平成21年から別居し、母は二人の子と生活している。
父の年収は約1300万円。母は約360万円。双方とも年収が多いことが前提です。
長男は私立中学に入学しその高等部に進学した。長女は公立小学校6年生。
こういう状況で、婚姻費用と私立学校の学費負担について争われました。
判決
※標準的算定方式に対する修正の部分のみを書きます。
長男の学費について
(私学への進学に対する承諾の有無について)
長男の〇〇中学部入学は、父親と母親が別居した後であるところ、父親は長男の〇〇高等部への進学はもちろん中学部への入学も了承していない旨述べるが、本件記録によれば、父親は同居中に私立中学受験を前提にして長男の家庭学習を指導していたと認められるほか、別居後も、長男が〇〇中学部に在籍していることを前提に婚姻費用を支払ってきたことが認められる。
また、〇〇は中高一貫教育の学校であるから、中学部に在籍している生徒は、特段の問題がなけれは、そのまま高等部に進学する例が多いと考えられる。
したがって、中学及び高校を通じて〇〇の学費等を考慮するのか相当である(なお、当事者双方の別居をもって、直ちにこの特段の問題に当たるということはできない。)。
注 ここは私学への進学を承諾していたかどうかという先決問題に対する判断部分で、上記の間接事実から私学への進学の承諾を認定したということです。
(私学のための超過費用の負担割合について)
標準的算定方式においては、15歳以上の子の生活費指数を算出するに当たり、
学校教育費として、統計資料に基づき、公立高校生の子がいる世帯の年間平均収入864万4154円に対する公立高校の学校教育費相当額33万3844円を要することを前提としている。
そして、父親と母親の収入合計額は上記年間平均収入の二倍以上に上がるから、
標準的算定方式によって試算された婚姻費用分担額が父親から母親へ支払われるものとすれば、結果として、上記学校教育費相当額よりも多い額がすでに考慮されていることになる。
そこで、すでに考慮されている学校教育費を50万円とし、長男の○○高等部の学費及び諸費の合計約90万円からこの50万円を差し引くと40万円になるところ、この超過額40万円は、父親及び母親がその生活費の中から捻出すべきものである。
そして、標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には双方が生活費の原資となし得る金額が同額になることに照らして、上記超過額を父親と母親が2分の1ずつ負担するのが相当である。
これを標準的算定方式の算定表への当てはめによって得られた婚姻費用分担額に加算すべきである。
(解説)
算定表では私立学校の学費には不足します。そこで私立学校への進学を承諾していた父母にはそれに対応する費用負担をすべきであるとされています。
しかし算定表には公立学校の学費分が考慮されているのでその金額は教育費として支払済みということになります。子が15歳以上の場合の算定表で考慮されているのは平均年収が864万4154円の場合に対応する公立高校の学校教育費相当額33万3844円なので、本件の様に864万円よりもずっと収入が多い場合には算定表が考慮している収入との比に応じて計算すると、約50万円を負担していることになる、というのがこの決定の趣旨です。
これは一つの計算方法であって、どんな場合でもこの決定と同じように計算されるとは限りません。家事事件は法律が細かく決めていないうえに最高裁決定がないので判例もできず、結局、裁判官の判断に委ねられる部分が多いのです。