子と再婚相手が養子縁組した場合の養育費

親権者が再婚した相手が子と養子縁組した場合に別居親が払う養育費はどうなるか

福岡高裁平成29年9月20日決定(判例時報2366号)

養育費を定めて離婚した後に親権者が再婚し,再婚相手が子供を養子縁組した場合の養育費について高裁が判断した例を紹介します。

事案

父(医師)と母は離婚し,子らの親権者は母,父は養育費として子一人当たり月額10万円を払うことを合意して離婚しました。

その後,母は再婚し,その再婚相手と子らは養子縁組しました。

父は,養子縁組の事実を知り,養育費の免除か相当額の免除を求めて調停を申し立てましたが,調停は不調となり審判に移行しました。

熊本家裁の判断

次が熊本家裁の判断内容ですが,これは後に高裁で変更されます。

「養親らの養子に対する扶養義務は生活保持義務であるが, 親権者とならなかった実親の扶養義務は養親らが負う生活保持義務に遅れる特殊な生活保持義務に過ぎないのであり,その意味では生活扶助義務に近く, 養親らの資力が十分でなく,養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときに,養子は親権者とならなかった実親に対して扶養請求することができる。」

と判断し, 子らの生活保護制度における最低生活費を算定し,養親らの基礎収入額と比較したうえで,父親(実親)の払うべき養育費を,子らの生活費の不足分である一人当たり一カ月7734円としました。

これに対して母親側が抗告をして高裁で判断されることになりました。

福岡高裁の判断

次が福岡高裁の判断内容です。

「両親の離婚後,親権者である一方の親が再婚したことに伴い,その親権に服する子が親権者の再婚相手と養子縁組をした場合, 当該子の扶養義務は第一次的には親権者及び養親となったその再婚相手が負うべきものであるから, かかる事情は,被親権者が親権者に対して支払うべき子の養育費を見直すべき事情に当たり,

親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく,養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは, 第二次的に非親権者は親権者に対して,その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。

そして,何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは,生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが,それだけでなく,子の需要,非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。 」

と判断を示しました。

そして抗告人の次の主張を否定しました。

抗告人(母親・親権者)の主張

『実親が子に対して負う扶養義務は,生活保持義務,すなわち,自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務であり,その実親が子に対して負う生活保持義務を,養親が実親に優先して第1順位としてまず負担し,養親の負担によりその全額が賄えないときには,第二順位として不足分を実親が負担すべきである。』

この抗告人(母親・親権者)の主張を,高裁は次の様に明確に否定しました。

高裁の判断

「養子縁組の制度は,未成年者の監護養育を主たる目的としており,養子縁組は,子の福祉と利益のために,その扶養も含めて養育を全面的に引き受けるという意思のもとにしたというのが相当であり,このような当事者の意思及び養子制度の本質からして,

子に対する扶養義務は,第一次的に養親にあり,

実親は,養親に資力がないなど,養親において十分に扶養の義務を履行することができない場合に限って,扶養義務を負うものと解すべきである。

非親権者である実親の資力が養親らのそれよりも高いからといって,非親権者である実親に対して,その差を埋め合わせるだめの金額を請求することはできない。 」

高裁は,離婚後に養子縁組した場合の子の扶養義務について,「子に対する扶養義務は,第一次的に養親にあり,実親は,養親に資力がないなど,養親において十分に扶養の義務を履行することができない場合に限って,扶養義務を負う」と判断したのです。

そして,高裁は,抗告人(母)世帯の年額の最低生活費等を計算して,未成年者一人当たりの不足額は3155円となるとしながら, 「その他,これまでの未成年者(子のこと)の生活水準との連続性など,諸般の事情を考慮すれば,相手方(父のこと)の支払うべき養育費は,未成年者一人当たり月額3万円とするのが相当である。」としました。

感想

離婚などの家事事件においては高裁決定というのは最高裁判例に代わる重みがあります。この決定は、離婚後に親権者が再婚し、子が養子縁組した場合における養育費の負担について明確に判断しました。結論的には従前の金額の3割に減額し、それは計算値の約9倍という和解的な結論です。