大阪高裁平成28年10月13日決定(判例時報2322)
(養育費請求までの経過)
夫婦は平成24年に離婚しました。長男は成人し,19歳の二男は就労しているので対象外で,母が監護養育する16歳の三男の養育費が問題となりました。養育費を請求する母の年収は給与所得で200万円強。養育費支払義務を負う父の年収は事業所得で500万円弱でした。
三男は全寮制の私立高校に進学し(これは父も承諾していました),学費と入学金は免除されましたが,寮費等に年間約85万円が必要でした。父は再婚し再婚相手の長男(16歳)と養子縁組をしてその扶養義務を負担するようになりました。
(高裁の判断)
子供が全寮制の高校に進学して寮費を払う場合その寮費には食費や光熱費も含まれているので私立学校だからといって,そして養育費義務者(父親)の再婚に伴う養子縁組をどう考えるかという問題について次の様に判断しました(理解のため表現を変更しています)。
三男が入寮し学費の相当部分が食費,光熱費を含む寮費に充てられるところ,入寮の限度で母親は食費及び光熱費の負担が軽減することが認められる。
そして,負担の軽減される額について検討すると,一級地-1における生活扶助基準の居宅第一類(飲食物費,被服費等個人単位で消費する費用)が15歳~19歳で月額45,677円,居宅第二類(光熱費,家具什器購入費等世帯全体で消費する費用)が世帯人数一人で月額43,798円,同二人で月額48,476円であること,世帯人数の減少が直ちに人数に応じた支出の減少につながるとはいい難いこと及び標準的算定方式により算定される養育費の額及び母親の基礎収入額を考慮すれば, 食費につき上記45,677円の約6割に当たる月額27,000円が軽減され,光熱費につき上記世帯人数二人の生活扶助基準額と同一人の額の差の約4分の1に当たる月額1,000円が軽減されると認められる。したがって,この月額合計28,000円を養育費から控除すべきものである。
また,父親は平成28年7月11日,Aと婚姻し,同日,同女の長男(16歳)と養子縁組を行い,上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。
これを前提として父親の三男に対する養育費の額を標準的算定方式により算定すると,月額44,000円程度となる。
(計算式)
186,718×(90÷(100+90+90))=60,016
60,016×(186,718÷(186,718+68,143))=43,969
そうすると,当事者双方の生活状況等,本件記録から認められる諸般の事情を考慮し,上記学費や食費・光熱費の負担減(月額28,000円)等を加味した養育費分担額は,平成27年8月から同年12月までは月額8万円,平成28年1月から同年3月までは65,000円,同年4月から同年6月までは69,000円,同年7月から三男の高校卒業が予想される平成31年3月までを48,000円,平成31年4月から三男が満20歳に達する日の属する月までを44,000円と定めることが相当である。
(まとめ)
以上が高裁の判断要旨です。子供が私立高校に進学する場合,養育費算定表に書いてある養育費の金額に,さらに私立学校の学費の一部を上乗せして養育費が定められるのが通例です。しかし,子供が私立全寮制の高校に進学して寮費を払う場合,その寮費には食費や光熱費も含まれているので(算定表の金額には既に子供の食費や光熱費が含まれている),父親も進学を認めた私立高校だからといって,養育費を加算する必要はないのではないかという父親の主張の一部を認めたものです。金額を具体的にどう算出するかは別として,この父親の主張は合理的ですので高裁も認めました。