離婚の口約束は有効か

口約束は有効か

離婚するときは夫婦で話合いをします。双方が冷静であれば淡々と進むかもしれません。しかし、離婚はその人のその後の人生計画に大きく影響するだけでなく、親・兄弟・親戚の目も気になる、世間体や子供の学校まで影響する大きな問題ですので、なかなか簡単には進まないものです。そういう大変な話合いを経て離婚とその条件について合意するまでが最初の関門です。 でも、合意できただけで安心してはいけません。口約束といえども有効ですから一度約束したということは重大な事実ですが、口約束を軽く見て約束を破る人間が多いことも事実だからです。離婚の話合いのときに一度した約束を指摘しても「そんなこと言ってない。」「証拠はあるのか。」と開き直る人がいるのが現実です。弁護士は、せっかく合意できたのにそれを破られると再び紛争が起きてしまいますので、できるだけ合意を明確にしておくように努力します。

口約束は危険が一杯

法律上は契約は文書にしなくても有効に成立するのが原則ですので(例外はあります)、離婚に関する口約束も契約として有効であるのが原則です。しかし、口約束だけで終わっている場合は、まず、契約(合意)の内容が不明確です。契約(合意)内容か明確であり特定されていないとそもそも契約としては認められないこともあります。また、口約束ではきちんとした証拠が残らないので「言った」「言わない」の争いが起きることが多くなります。 そこで、離婚や慰謝料,養育費,財産分与などについて合意できたのならそれを口約束だけでは終わらせずに文書にして残しておいた方がいいということになります。文書に書くときも注意が必要です。

離婚の約束を文書にするときの注意

    1. 1 きちんとした紙を用意しましょう。コピー用紙や罫紙、便箋などがいいですが、適当な紙が無ければノートを破いたものでも仕方ないでしょう。広告の裏などは離婚に関する重要な決め事を書くには不適当というべきです。
    2. 2 ボールペン(常識的に黒色がベストでしょう)やインクを用います。鉛筆の様に消すことが可能な筆記用具は重要な文書では決して使いません。
    3. 3 できれば約束する人に全て自筆で書いてもらいましょう。それが無理なときは誰が書いてもかまいませんが(PCで印刷したものでもかまいません)、約束する人が本文の内容を確認したうえで住所、氏名、年月日(最低限,氏名だけは)を自筆で書いてもらいましょう。
    4. 4 そのときに印鑑を持っているなら押印してもらいます。実印を持っているなら実印で押印してもらった方が信用度が高まります。実印というのは本人が保管しているもので重要な約束にだけ押印するのが通常なので文書の真正立証に役立ちます。実印がなければ認め印であっても押印はあった方がいいでしょう。法律上は自筆による署名であれば捺印の有無はあまり重要ではないのが通常ですが、大事な書面には捺印するというのが日本の文化ですので可能なら押印はしてもらった方がベターです。
    5. 5 その文書の内容が、二人の人がお互いに何かを約束するのであればそれは「契約書」になるので、契約する(約束する)当事者が二人とも、住所と氏名を記載すべきものとなります。しかし、その文書の内容が、一人の人の約束しか書かれないものであるときは、それは「契約書」というよりは「念書」となり、約束する人だけが住所と氏名を書くことになります。文書の表題が「離婚の合意書」とか「念書」とか少し違ってきます。
    6. 6 文書でする約束も、その約束の内容が明確に特定されていなければ法律上有効に成立しません。たとえば、養育費について「子供が必要なだけの養育費を負担する。」と決めても、それでは履行すべき内容が特定されていないので道義的にはともかく法律的には裁判をして強制執行することもできず無意味というべきです。「子供に不自由はさせない。」という趣旨だろうなとは思いますが、「子供が必要なだけ」というのが幾らなのか明確ではないので、かえって法律適用の面ではあまり有利ではないのです。「養育費として一カ月○万円を支払う。」と決めた方がいいのです。

離婚の合意は公正証書に

この様にして当事者だけで作成された文書も法律上は有効ですが、その約束を破られたときには、契約の成立と債務不履行を立証して裁判に訴えて判決を得ないと強制執行ができません。そこで、約束を公正証書にしておくと金銭債務については裁判をしないでも強制執行ができるようになります。公正証書というのは、 公証役場に行って、公証人に作成してもらう文書のことです。公証役場というのは(率直に言うと)元裁判官や元検察官だった人の退官後の再就職の場の一つです。役場と言う名称ですが、市役所や区役所の様な大きな建物ではなく、普通のビジネスビルの中の一室です。検索すれば近くの公証役場が出てきます。普通は、 事前に合意内容を説明しておいて、そのうえで公正証書を作成する日を予約して決めます。文書の内容は公証人が作成してくれます。

結局,専門家に任せた方がいい

以上、離婚に関する約束事を口約束から文書にするときの注意点をいろいろと述べました。紙やボールペンはすぐに用意できますが、約束の内容を法律上も有効な様に作るのは大変です。そうすると結局は専門家に依頼した方がいいということになります。そして、どうせ相談するなら早めに弁護士に相談した方が得策です。離婚の話合いは精神をとても消耗します。弁護士に相談しておくと今後の展開について予想がつくので、とても気持ちが楽になります。弁護士は、協議離婚のときの約束を文書にまとめることもしますし、公正証書を作成するお手伝いもします。話合いがうまくいかなければ調停や裁判まで行います。一度、弁護士に相談しておけば、その後、どのように離婚が進もうとも同じ弁護士だけに依頼し続けることができるようになります。