離婚の成立と婚姻費用分担

最高裁令和2年1月23日決定 判例時報2454号

離婚が問題なる場合、離婚(夫婦関係調整)調停と同時に婚姻費用分担調停が申し立てられることがよくあります。その調停で合意できないと、夫婦関係調整調停は不調終了して終わり(別に離婚訴訟を提起することになります)、婚姻費用分担調停は不成立になると自動的に審判手続に移行します。これがごく普通の流れです。
そして、離婚だけでなく離婚の条件なども含めた最終合意ができた場合に初めて調停で離婚が成立するのが一般的です。

しかし、この事件では調停で離婚については合意して調停が成立したのに、婚姻費用分担調停だけが合意できずに残って不成立になり審判手続に移行しました。なおこの離婚調停では、離婚と親権者指定、年金分割についてだけ合意され、財産分与に関する合意はなく、清算条項もありませんでした。

家裁と高裁の判断が分かれる

家裁は離婚成立までの未払い婚姻費用として74万円を認めました。
ところが札幌高裁は、離婚によって婚姻費用分担請求権消滅したとして家裁の審判を取消し、婚姻費用分担の申立を却下しました。
最高裁はこの札幌高裁の決定を取消して差し戻しました。最高裁は離婚が成立しても離婚成立までの期間の婚姻費用分担義務は消えないことを認めたのです。

最高裁決定

最高裁決定の一部を次に引用します。
「婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず、家庭裁判所は過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を決定することもできると解するのが相当である。」

解説

法律的には最高裁決定で尽きていますが、これは離婚の合意時に清算条項や財産分与の取り決めがなかったことが前提となっています。いつまでも過去の婚姻費用が請求できると認めたわけでもありません。この点は注意が必要です。