特有財産から生じた配当金や不動産所得、婚姻費用分担額

大阪高裁平成30年7月12日決定(判例時報2407号)

婚姻費用の額を決めるときに、義務者の特有財産から生み出される賃料や配当収入についても考慮するべきか。この問題について参考になる決定が出ました。

事案)

夫は一部上場企業を定年退職した後、前妻と離婚し、会社を設立、経営している。
役員報酬は年月504万円(月額42万円)、配当収入が年額200万円でした。
妻は婚姻後は夫が経営する会社で年額96万円(月額8万円)の給与を得ていましたが平成29年9月に退職しました。平成29年に夫婦は別居を始めており、妻は夫にたいして婚姻費用の分担を求めて調停を申し立てていました。
なお、夫は平成29年の確定申告書を出すように裁判所から求められましたが提出していません。そこで平成27年と28年の課税証明書を参考にして裁判所は算定しているようです。

高裁決定

問題)結婚前から保有していた特有財産から生じた配当金や不動産所得は、婚姻費用分担額を決めるにあたって考慮されるべきか?
この点、高裁は、「特有財産からの収入であっても,これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額を定めるにあたって基礎とすべき収入とみるべきである。」と判断しました。この抽象的な部分は家裁も同じです。
そして、この事件については、「夫は婚姻後、妻に対し、会社からの給与(月額8万円)のほか、生活費として7万円を渡し(合計15万円)、その五カ月後から別居三カ月前までの1年四カ月間、生活費を月額10万円に増額した(合計18万円。夫が妻において食費(月2ないし3万円)の残りを使ったと述べていることからすると(夫の陳述書)、別居中、月額約15万円が妻において費消しえた金額であったことになる。
そして、この15万円という金額は、(夫の給与収入+配当収入+年金収入+不動産所得)を基準として算定表に当てはめた月額13万円という金額と近似している。
そうすると、同居中の双方の生活費の原資が夫の役員報酬に限られていたとみることはできず、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき夫の収入を役員報酬に限るのは相当ではない。と判断しました。

(この点に関する家裁の判断)
家裁と対比すると問題点が分かりやすくなります。一審である家庭裁判所はこの問題について、
「妻は、夫が得た株式配当200万円を収入として加算すべき旨主張するが、婚姻費用分担額は生計維持に充てられる収入を基礎として算定すべきところ、同居時において、かかる株式配当が夫婦の生活費に供されていたことを認めるに足りる資料はない。したがって、株式配当を本件婚姻費用分担額算定の基礎である収入と認めることはできない。」と判断しました。
(解説)
家裁も高裁も一般論としては同じ考えに立ちながら具体的な事件に対する当てはめとしては違った判断をしました。同じ事実関係でありながら家裁と高裁で判断が食い違った理由は分かりにくいです。高裁の事実への当てはめ部分が説得力に欠けるのです。一般論の部分だけを参考にすべきでしょう。

その他の問題点

その他の点に関する高裁決定の要旨は次のとおりです。婚姻費用について判断した対象ごとに書いてみます。

経営する会社からの株式配当金

夫は経営する会社から年間200万円の株式配当を得ていました。
これについて裁判所は、これは税理士と相談の上で配当金の名目で支払われたにすぎないから、婚姻費用分担額の算定に当たっては給与収入と同視しうる、と判断しました。
解説)夫は勤務先を定年退職した後に会社を設立した経営者で同社の役員は夫一人だけでした。経営する会社から経営者に払う金を給与収入にするかそれとも株式配当にするかを税理士と相談して決めただけだから実質的にはどちらも同じだという判断のようです。

公的年金

夫は約128万円の公的年金を受け取っていました。
これについて裁判所は、年金収入は職業費を必要としておらず、職業費の割合は給与収入の2割り程度であるから、年金収入を給与収入に換算した額は年金額の128万円を0・8で除した160万円となる(128÷0.8)と判断しました。
(解説)標準的算定表は「給与収入」と「自営収入」のどちらかを基準としており「年金収入」の算定表はありません。そこで「年金収入」を算定表に当てはめるときに、「給与収入」の前提とされている職業費が「年金収入」の場合はかからないことを理由に、実際に受け取った金額以上に高く評価したということです。
年金収入についてはこの高裁の計算方法(年金額を0.8で割る方法)の他にもう一つ、給与所得者の基礎収入割合に端的に職業費の割合(20パーセント)を加えたものを基礎収入割合とするという方法もあります。

不動産所得

不動産所得として20万円を得ているが、これを標準的換算表給与収入にすると25万円程度となると判断しました。
(解説)給与所得と自営による所得がある場合にはそのままでは算定表に当てはめることができません。そこで自営となる不動産所得を給与所得に換算しました。

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