婚約破棄の裁判例(2)

既婚者との婚約破棄(東京地裁平成24年4月13日判決)

これは既婚男性の結婚約束を信じて交際(妻に対しては不貞行為となる)を続けた女性が、男性に対して慰謝料を請求したケースです。 34歳の未婚女性Aがお見合いパーティーで37歳男性Bと知り合いました。このお見合いパーティーは既婚者や恋人がいる人は参加できないパーティーでしたが、男性Bは既婚者で妻子がいるにもかかわらず参加して、独身だと嘘を言って交際を申し込みました。AとBは頻繁に食事をしたりホテルに行くなどして男女関係を続けました。お見合いパーティーから半年後、ブログが原因でAとBとの関係がBの妻Cに発覚し、AはBに妻子がいることを知りCに謝罪しました。

しかし、Bから、「婚姻関係がうまくいってない。」「離婚後に子供の親権が取れたら一緒に育ててくれるか?」などと言われたことから、Aは将来Bと結婚できるかもしれないと考えて交際を継続しました。 BはAに対しB自宅の近くに引っ越して欲しいと言い、AはB自宅近くのマンションに引っ越しました。 BはAに対し、実際にはCと離婚する意思はなかったのにAとの交際を継続するため、「子供が10歳になるまでに離婚すると子供の親権は母親となってしまうからそれまでは離婚は難しいが、その後に離婚する。」と言い、ペアリングを贈ったり、写真結婚式をあげるなどしました。BはCに対してはAとは別れたと言い、Aとは頻繁に会っていたものの、自宅にほぼ毎日帰宅し、土日は自宅で過ごし、朝食を家族3人でとり、家族旅行に出かけるなど普通の家庭生活を営んでいました。 AとBの関係は再びCに発覚し、AとBはCに謝罪して今後は会わないと約束しましたが、その後もAとBは男女関係を続けました。 AはBと区役所に行き氏名欄に愛称を書き入れた婚姻届をBからもらい、離婚届の用紙をBに渡し氏名欄にBの名前、離婚する日を平成27年5月3日と記載してもらったりしました。BはCと離婚するつもりはなかったのにAとの交際を継続するためにAに言われたとおりにしていました。

AとBが出会ってから4年後、AとBが公園で抱き合っていたところをCに見つかり、CからAと別れることを強く申し入れられたことから、BはAと離別することを決意しました。 AはBが勤務する会社の人事部を訪問して相談し、Bは退職を勧奨されて同社を退職しました。 未婚女性Aが不貞相手Bに対して慰謝料120万円を請求してを訴え、妻CがAに対して慰謝料300万円を請求して訴えました。この二つの事件を併合審理して出された判決です。

AのBに対する慰謝料請求

Aは、Bが未婚と信じていたときまでは被害者的立場でした。しかし、途中でBが既婚であると知ってからも男女関係を継続したことはCに対する不法行為(不貞行為)となります。そこで、自ら不法行為となる行為をしていた者が慰謝料を請求するのは信義則に反する、あるいは不法原因給付の法理を類推してAは法で保護するに値しないとB側は主張しました。裁判所はこの問題について判断し、Aの慰謝料請求を認めました。

判決は(引用した判決の文言を簡単にしています)、「BはAに対し、独身であると虚偽の事実を申し向けてAとの男女関係を開始し、既婚者であることがAに知られた後は、自己の欲求を満足させる目的でAとの男女関係を継続するために、離婚する意思もAと結婚する意思もないにもかかわらず、AをしてBと将来結婚できるものと誤信させてAとの男女関係を継続したものであるから、Bの行為はAに対する不法行為を構成し慰謝料を払う義務がある。」

信義則違反・不法原因給付に対する判断

そして、信義則違反や不法原因給付の法理の類推というBの主張に対しては、「確かにAはBが婚姻していることを知っていたのであるから、将来、Aと結婚する旨の約束をして男女関係を継続することはCとの関係においては不法行為を構成する違法な行為であることは明らかである。しかしながら、Bの行為は上記のとおりであって、その違法性が極めて強いことからすれば、Aの権利は、なお、法的保護に値するものというべきである。」として、Bの主張を認めませんでした。

通常、裁判所は自らが不法な行為をしたものに対しては厳しく判断することが多いのですが、このケースではBが独身と偽ってお見合いパーティーに参加したことが交際のきっかけですし、結婚する気もないのに、Aを自宅近くのマンションに住まわせ、ペアリングを渡し、婚姻届や離婚届を渡し、写真結婚式をあげ、その間、自分の家庭生活は普通に行っていたなど、自分の家庭は守りつつAを騙して男女関係だけ継続していたことが露骨で、あまりにも悪質すぎると判断したものと思われます。なお、裁判所は、妻CからAに対する慰謝料も同額の80万円を認めました。

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