事情変更により婚姻費用を減額した例

名古屋高裁平成28年2月19日決定(判例時報2307号)

離婚は成立しないまま別居している夫婦では婚姻費用の問題が出てきます。一度婚姻費用を決めた後に夫に子供が生まれたことを理由に婚姻費用の減額を認めた裁判例があります。

夫(歯科医院経営)と妻は別居し,夫婦関係調整調停において,別居期間中の婚姻費用としてある特定の月から月額50万円を払うという調停が成立しました(高額所得者なので婚姻費用も高額です)。

その後,夫と別の女性Xとの間に子Gが生まれました。

その後,夫はXと別居して,別の女性Yと同居し,Yが妊娠していた双子(I,J)を胎児認知しました。夫はYとの間の子Gも認知していました。

夫は妻に対して,事情が変更したとして,家庭裁判所に対し婚姻費用減額の調停を申立てました。

ところが,家庭裁判所は,婚姻費用の減額を認めることは不貞行為を助長・追認するも同然であるとして夫の申立を審判で却下しました。

それに対して夫が即時抗告し,名古屋高等裁判所は夫の主張を認めて,原審判を取消しました。

高裁の判断

事情変更の有無について

婚姻費用の分担額の減額は,婚姻費用分担の程度若しくは方法について協議又は審判があった後,事情に変更を生じたときに認められる物であるところ(民法880条参照),上記「事情の変更」とは,協議又は審判の際に考慮され,あるいはその前提とされた事情に変更が生じた場合をいい,協議又は審判の際に既に存在し,判明していた事情や,当事者が当然に予想し得た事情が現実化したにとどまる場合を含むものではない。 上記の認定事実によれば,夫は,(婚姻費用を決めた)調停成立後に出生したG,I,Jを認知し,その扶養義務を負うに至っており,調停成立後,夫が扶養義務を負う未成年の子の数に変更が生じたことが認められ,これは,婚姻費用の分担額の減額を認めるべき「事情の変更」に該当するものである。

これに対し,妻側は,重婚的内縁関係から派生した婚外子の存在を考慮するのは信義則に反すると主張するが,G,I,Jは,長男・二男と同様,夫から等しく扶養を受ける権利を有するから,この主張は採用できない。

※ 子供を平等に扱う高裁決定が妥当でしょう,原審判を出した裁判官はおかしいですね。

事情変更による婚姻費用の減額

高裁決定が詳しく言う様に,婚姻費用は一度決めていても,その後,事情の変更があれば減額されることがあります。婚姻費用は結婚が続いていることが前提なので,再婚は(重婚となるので)ありえないですが,このようなケースはありうるので参考になる裁判例です。