婚約破棄の法的責任

婚約とは

婚約とは、将来、婚姻するという約束です。後で詳しく説明しますが、有効に成立した婚約を不当破棄すると慰謝料を払わなければならないなどの法的効果が発生します。そこで、まず、婚約が成立しているかどうかが問題です。 婚約は将来結婚しようという約束ですから二人の合意だけでも成立します。口頭の約束でも足り文書にする必要はありません。しかし、二人の合意が必要ですから一方が求婚しただけでは足りません。もちろん冗談で結婚しようと言い合ってもそれは約束にはなりません。二人が将来を考えて真剣に結婚を約束したことが必要です。

婚約成立の証拠

婚約破棄が法的な問題になるときは、そもそも婚約したかどうかが大きな争点になります。交際している男女が別れても、もし婚約していなければ単なる自由恋愛の範囲内ですからとくに法律的な問題は生じませんが、婚約していたら不当な婚約破棄かどうかが問題になるからです。 裁判は証拠によって証明する手続ですから、婚姻の成立も証拠によって証明する必要があります。両家が顔を合わせた結納を正式であれ略式であれ行っていれば婚約の成立は明白です。しかし、結納をしていなければ婚約にならないわけではありません。結納金や結納金に代わる物の授受、婚約指輪の交付、結婚式場の予約など、二人が将来の結婚を約束したことを間接的に示す客観的な事実が証拠となります。

婚約の法的な効果

婚約という約束は契約の一種ですので、婚約が成立すると両者はお互いに誠意を持って交際しやがて夫婦共同体を成立させるように努める義務を負うことになります。しかし、婚姻を強制することはできないのでそういう意味では少し弱い契約です。婚約したけれどもダラダラと婚姻届を出さないでいるだけでは法律的に問題とすることは難しいでしょう。 婚約が成立すると、正当な理由なしに一方的に破棄すると債務不履行となり損害賠償責任を生じます。

損害賠償の対象としては、結納、結婚式や披露宴の費用、慰謝料などになります。 婚約の不当破棄の場合に慰謝料を発生させることについては古い判例があります。「・・・婚姻予約が成立したことを認定しているのであるから、不当にその予約を破棄した者に慰謝料の支払義務のあることは当然であって、被上告人の社会的名誉を害し、物質的損害を与えなかったからといって、その責任を免れうるものではない。」(最高裁昭和38年9月5日判決)。以後の下級審はこの判例にしたがって慰謝料を認めています。

結納として結納金や高価な品物を結婚予定の相手に送る風習があります。この結納金や品は結婚が破談になったときは返還すべきものです。しかし、結婚が破談になった原因を作った側からの結納金の返還請求は、信義則上許されないとされる場合もあります。その原因の悪質性の判断が重要です。

婚約破棄の正当な理由

婚約を破棄する正当な理由とは何かが問題です。婚約相手が他の異性と性的関係にあれば、それは婚姻後の不貞行為と同様に婚約破棄の正当な理由となります。 婚約もしていない段階であれば自由な恋愛関係として、特段の法的な拘束力なく自由ですが、婚約という契約はそれなりに自分と相手の自由を縛るということです。その他、離婚原因として民法に定められている事柄は参考になりますが、婚姻よりは拘束力が穏やかな契約関係とみられますので、離婚原因がなければ婚約を破棄できないということではないでしょう。婚約は将来、結婚しようという約束なのですから、婚約の解消は基本的には双方の話合いで穏やかに決めるべき事柄です。婚約の段階で厳しく対立していたら結婚したってうまくいくはずがありませんから。