東京高等裁判所平成28年1月7日決定
離婚事件の事案
AとBが離婚などについ公正証書で定めました。その公正証書には 「夫Aと妻Bは離婚することに合意し,離婚に伴う子の養育費,慰謝料,財産分与の支払いについて,以下のとおり合意した。」 「BはAに対し,離婚による慰謝料として金850万円の支払義務あることを認め,平成22年9月末日までに金400万円,平成28年5月末日までに金450万円を,支払う。」 ところがAが慰謝料の支払を怠ったため,Bが慰謝料の未払い分の一部と執行費用を請求債権として,Aの預金債権の差押を裁判所に申し立てました。
原審決定
ところが原審の東京地裁裁判官はこの慰謝料請求の強制執行申立を不適法であるとして却下しました。 原審裁判官は,この慰謝料請求権は,公正証書作成時に婚姻関係にあった債権者(妻)及び債務者(夫)が離婚した際に初めて発生するものである,だから,離婚したことを称する文書の謄本が債務者に送達されたことが差押するためには必要であると判断しました。 それに対して妻が執行抗告をし,東京高裁は妻の執行抗告を認容しました。つまり預金に対する差押(強制執行)を認めました。
東京高裁決定
東京高裁は次のように判断しました。
「本件執行証書(公正証書)は,妻と夫が離婚することを合意するとともに,離婚に伴う養育費,慰謝料,財産分与の支払を合意したものである。この離婚の合意は協議離婚をすることの合意と解されるものであり,協議離婚は届出を必要とする要式行為であるから,その届出がされて初めて離婚の効力を生ずるものであり,離婚に伴う慰謝料請求権も,特段の事情がない限り,離婚の効力が発生するまで成立しないものと解されるが,
この協議離婚の法的性質から,離婚当事者が離婚の成立時期より前の一定の時期を期限として離婚に伴う慰謝料請求権を発生させる合意をすることが法的に無効とされる理由はないと解され,このような合意の存在は,上記の特段の事情に当たるものというべきである。
そして,この事件について,その公正証書の文言に対し,率直な文言解釈としては, 離婚の成立を要件としない支払義務を定めたものと解するのが相当であるとしました。
離婚を決めると同時に,慰謝料,財産分与なども決めて合意することはよくあります。離婚と金銭支払が同時に履行できれば問題はないのですが,分割払いの場合もあり,そういうときの一つの事例判決として意義があります。