面会交流の妨害と不法行為責任

熊本地裁平成27年3月27日判決(判例時報2260号)

この事件はとても複雑な経過をたどっているのですが簡単に説明します。 夫と妻は平成24年10月に別居し,3歳の長男は夫,1歳の二男は妻が引き取って実家で育てていました。別居後すぐに調停が始まり翌年4月に別居と面会交流を定めた調停が成立しました。

面会交流の調停条項

調停には次の条項がありました。読みやすくするため一部改変しています。

1 当事者双方は,当分の間,別居を継続する。

2 当事者双方は,婚姻解消又は同居するまでの間,長男の監護者を夫,二男の監護者を妻と定める。

3 当事者双方は,妻が長男と,夫が二男とそれぞれ月2回程度(原則として第二,第四土曜日)の面会交流をすることを認め,その具体的日時,場所,方法等については子の福祉を慎重に配慮して,当事者間で事前に協議して定める。

その後,何回か面会が行われましたが,面会に同行した親の発言や体調不良を理由として面会交流の拒否,家庭裁判所による面会交流の履行勧告などがあり揉めていました。

平成25年12月に夫が妻と妻の代理人弁護士に対して,面会交流やそのための協議をしなかったり遅延させたことが不法行為にあたるとして損害賠償訴訟を提起しました。 平成26年1月の新しい調停の期日において面会交流の協議がなされ,面会交流が実施されました。

熊本地方裁判所の判断

裁判所の判断を次に示します。

一般に,監護親は,子の福祉のため,非監護親と子が適切な方法による面会交流をすることができるように努力する義務があり,また,非監護親は子と面会交流をする権利があるということは明らかである。

もっとも,本件調停成立以前においては,面会交流の具体的日時,場所,方法等が決定されていなかったことを考慮すれば,上記の権利及び義務は,いまだ抽象的なものにとどまり,夫が二男と面会交流をすることができなかったからといって直ちに夫の法的保護に値する利益が侵害されたとまではいえない。

また,同様に,妻が面会交流をできるように努力する義務を負っているとしても,結果的に面会交流ができなかったからといって直ちに夫に対する不法行為を構成するということはできない。したがって,本件調停成立以前の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

本件調停においては,面会交流の具体的日時,場所,方法等の詳細については当事者間の協議によるものとされており,また,上記協議の方法や内容についても当事者に委ねられている。したがって,本件調停の不履行を理由として間接強制をすることはできないと解されるし,当事者の行うべき協議の内容の特定を欠くことから,本件調停に定められた協議を実施しないことを理由に本件調停の債務不履行に基づく損害賠償請求をすることもできないと解される。

しかしながら,本件調停においては,面会交流の実施回数と実施日につき月2回( 原則として第二,第四土曜日)と具体的に定めた上で,その詳細については当事者間の協議に委ねていること及び非監護親との面会交流が子の福祉のため重要な役割を果たすことに鑑みれば,当事者は本件調停に従って面会交流を実施するため日時等の詳細について誠実に協議すべき条理上の注意義務(以下「誠実協議義務」という。)を負担していると解すべきである。

そして,一方当事者が,正当な理由なく一切の協議を拒否した場合や,相手方当事者が到底履行できないような条件を提示したり,協議の申入れに対する回答を著しく遅滞するなどして社会通念に照らし事実上協議を拒否したと評価される行為をした場合には,誠実協議義務に違反し相手方当事者のいわゆる面会交流権を侵害するものとして,相手方当事者に対する不法行為を構成するというべきである。

地裁が示したここまでの抽象論は一般的にも通用しうるものです。この地裁判決に対する控訴審判決が平成28年1月20日福岡高等裁判所で出されましたが(判例時報2291号),高裁もほぼ同趣旨のことを認めています。

地裁は慰謝料20万円を認めたが高裁は認めず

地裁はその事件において,この一般論を適用して妻と妻の代理人弁護士に不法行為責任を認めました(慰謝料20万円)。しかし,高裁はこの事件では不法行為責任を否定しました。抽象的な義務は認めても実際に不法行為が成立するかどうかはそれぞれの事例によって異なるところです。