親権者を母親から父親に変更した例

離婚するときに未成年の子がいるときは親権者を決めなければいけません(民法第766条,819条)。一度親権者を決めた後に親権者を変更することも可能です。子供が小さいときは母親が親権者としてとても有利ですが、子供が小さいのに母親から父親へと親権者を変更した裁判例があります。

福岡高等裁判所平成27年1月30日決定(判例時報2283号)

事例 女性は前夫との間に2人の子がいましたが離婚し,2人の子の親権者は前夫とされていた。女性と男性は平成20年に結婚し,平成21年に長男,22年に長女が生まれた。 23年に女性は夜間飲食店等でアルバイトするようになり,男性の留守中にバイト先の男性チーフを自宅に泊めるなどして妊娠し,妊娠中絶した。 平成25年,男性は一旦は2人の子の親権者を女性とすることに同意したが,その後,約束に反して女性が男性チーフと交際していることが分かったので親権は渡せないと言った。これに対し女性は包丁を自分の手首に突きつけ,その様なことを言うと死ぬと言って争った。 平成25年,話合いで,男性の母親が「女性の住居や昼の仕事が決まり生活が安定するまで子を監護する。」と申しで,それを女性が承諾し,そのうえで子の親権者を女性とすることで合意し離婚届を提出した。 女性は子供を男性の両親に預け,自宅を出てアパートを借りた。平成26年,男性は,親権者変更の調停を申立てましたが,調停は審判に移行し原審は親権者変更の申立を却下しました。それに対して男性が抗告したのがこの事件です。

裁判所の判断

福岡高等裁判所はこの事件について次のように判断しました。

民法819条6項は,「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更を認める旨規定しているから,親権者変更の必要性は,親権者を指定した経緯,その後の事情の変更の有無と共に当事者双方の監護能力,監護の安定性等を具体的に考慮して,最終的には子の利益のための必要性の有無という観点から決せられるべきものである。

そこで検討すると,

1 未成年者らは平成25年〇月以降,親権者である女性ではなく男性及びその両親に監護養育され,安定した生活を送っており,このような監護の実態と親権の所在を一致させる必要があること

2 婚姻生活中において女性は未成年者らに対して食事の世話等はしているものの, 夜間のアルバイトをしていたこともあって,未成年者らの入浴や就寝は男性が行っており,またその間の未成年者の幼稚園の欠席日数も少なくないこと

3 女性は未成年者らの通園する幼稚園の行事への参加に消極的であること,また、 親権者であるにもかかわらず保育料の支払も行っていないこと

4 女性に監護補助者が存在せず,男性と対比して未成年者らの監護養育に不安があること

5 未成年者らの親権者が女性とされた経緯をみても,未成年者らの親権者となることを主張する女性に男性が譲歩する形となったが,他方で女性の住居や昼の仕事が決まり,生活が安定するまで未成年者らを監護することとなり現在に至っているので,必ずしも女性に監護能力があることを認めて親権者が指定されたわけではないこと

6 女性が養育に手がかかる幼児がいながら婚姻期間中に男性チーフと不貞行為を行っており,未成年者らに対する監護意思ないし監護適格を疑わせるものであることが認められる。

そうすると,未成年者が5歳,4歳と若年で母性の存在が必要であること,不動産会社への再就職が決まり,一定の収入も見込まれることを併せ考慮しても,未成年者らの利益のためには親権者を女性から男性に変更することが必要であると認められる。

この事件では,婚姻中も父親が育児をしていたこと,離婚後も父親側が子供を実際に養育していたという事実が大きく影響したものと思います。また,母親の不貞行為を監護意思ないし監護適格の点で不利益に考慮した点も注目されます。こういう事情があれば母親から父親への親権者変更も認められる可能性があるという事例判決です。

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