静岡地裁浜松支部平成11年12月21日判決(判例時報1713号)
面接交渉の調停条項
ある夫婦が調停で離婚しましたが、そのときに
「妻(監護親)は夫に対し、子供と2カ月に1回、1回につき2時間ていど面接することを認め、夫からの申し出により、日時、場所、方法等について協議することとし、妻は子の面接交渉が円滑に行われるように誠意をもってこれにあたる。なお、面接場所については、子の意思を尊重する。」
という子供との面接交渉に関する調停条項が決まりました。 調停で離婚した当時、子供は4歳の男の子でした。
調停が成立した翌月に公園で面接交渉を実施するという協議が成立しましたが、夫がその時刻に公園に出向いても妻と子は現れませんでした。その後、夫の申し出により、家庭裁判所調査官から妻に対し履行勧告がなされましたが、それにも妻は応じませんでした。
損害賠償請求訴訟
夫は妻に対して、子供との面接交渉を妻が拒絶したことは違法であるとして500万円の損害賠償を請求しました。
妻は、夫と子供との面接交渉を拒絶したのは婚姻後、夫が自己本位でわがままであったことが遠因であると主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、夫婦の婚姻中の状況について判断して被告(妻)の主張を排斥し、原告(夫)の主張を認めました。そして、 「子供は生まれたときから二親とは別個独立の人格を有、その者固有の精神的世界を有し、固有の人生を歩むというべく、決して母親たる被告の所有物ではないのである。・・・被告(妻)が原告(夫)の許を離れて別居するに至ったのは、本件調停の経過や調停離婚成立の過程を併せ考慮すれば、決して原告が自己本位でわがままであるからというのではなく、むしろ、被告の親離れしない幼稚な人格が、家庭というものの本質をわきまえず、子の監護養育にも深く考えることなく、自己のわがままでしたことであって、そのわがままな態度を原告に責任転嫁しているものという他はなく、被告の別居に至る経過が今回の面接交渉拒否の遠因となるとする被告の主張はとうてい採るを得ない。・・・被告が原告に対して、子供との面接交渉を拒否したことは、親権が停止されているとはいえ、 原告の親としての愛情に基づく自然の権利を、子の福祉に反する特段の事情も無いのに、さとこらに妨害したということができるのであって、諸事情を考慮すれば、その妨害に至る経緯、期間、被告の態度などからして原告の精神的苦痛を慰謝するには金500万円が相当である。」
という判決を出しました。
調停において約束した面接交渉を拒否した場合、拒否する正当な理由がない以上、損害賠償責任を負うと思われます。ただし、この判決が認めた500万円という金額は相当に高額な判決であり一般的とは言えないでしょう。