大阪高裁令和3年8月2日決定 判例時報2518号
離婚するときは親権が大きな争点になり離婚した後は子どもとの面会交流が大きな問題になりやすいです。金銭的な問題は中間的な解決が可能ですが、子どもの身体は一つしかないので中間的解決がしずらいのが背景にあるでしょう。
面会交流は離婚した両親間の話合いで穏やかに解決していくべきものですが、この事件では厳しく対立しました。
別居親である父親が、調停で合意したとおりの面会を家裁に命令してもらい、さらに間接強制と言ってその不履行があったときは金銭を払えという申立をしました。一審にあたる家裁は子どもの一人、一回につき4万円という間接強制を認めましたが、高裁はそれをひっくり返して認めませんでした。
なお、この事件の母親はリハビリテーションクリニックに勤務する医療従事者、父親は高齢者介護施設に勤務する介護福祉士でした。
事案(分かりやすくするため改変しています)
調停成立(2年12月)
令和2年12月、離婚と同時に面会交流についても調停成立。面会に関する調停の内容は
(1)「父(別居親)と子どもら(長女12歳、長男9歳)との面会交流を、毎月1回、第3土曜日の午前10時から午後6時まで実施する。母(監護親)の家で子どもらを受け渡しする。」
(2)「子どもらが面会中であっても、子どもらが帰宅したいとの意向を表明した場合には直ちに面会を中止して帰宅させる。」
(3)「父と母がそれぞれの勤務先等の身辺や子どもらの通学先において新型コロナウィルスやインフルエンザ等の罹患、流行があった場合は、他方に連絡して協議する。」
(4)「双方は子どもらの意思や状況に応じて面会方法を変更する必要が生じた場合は、面会方法の具体的変更内容につき誠実に協議する。」
というものでした。この調停条項のなかでは(1)で具体的な面会日程を決めている点が後々間接強制の申立を可能にしたということがあります。よほど揉めていないとここまでは決めないのが普通ですが。
面会から間接強制に至る経過
2020年12月19日 ビデオ通話により長男と30分間面会実施。母親の職場で新型コロナウィルス陽性者が出たためビデオ通話になり、長女は寝ていた。
12月28日 長男・長女と会って直接クリスマスプレゼントを渡した。
2021年1月23日 ビデオ通話により長男と30分間面会実施。新型コロナウィルス感染症の緊急事態宣言発令、父の職場で陽性者発生のためビデオ通話になり、長女は寝ていた。
2月27日 ビデオ通話により長男と20分間面会実施。
3月6日 長男・長女と直接会って誕生日プレゼントを渡した。
3月20日 ビデオ通話による面会を合意したが予定の時間に父親が寝過ごしたため、1時間遅れで長男から発信して15分間電話で交流した。
3月23日 長女の小学校卒業式終了後、母親は長女を伴って父親を訪問し、父親とその両親と直接会った。
4月の面会交流は実施されなかった。母親が新型コロナウィルス感染症の動向や長女が中学に入学直後だったことから4月17日の面会交流をビデオ通話により実施してほしいと申し入れていたが、父親が拒絶し応じなければ間接強制を申し立てると回答していたため。なお、まん延防止等重点措置が適用され緊急自体が宣言された。
4月22日、父親は母親に対し子どもらとの面会交流の履行を求め、その不履行1回につき10万円の間接強制金を支払う裁判を求める申立を家庭裁判所にした。
5月6日、ビデオ通話により長男と15分間交流した。
5月31日、家庭裁判所(京都家裁 中島栄裁判官)は母親に面会交流の履行を求め、その不履行につき子ども1人当たり一回4万円の間接強制金を支払うよう命じる決定を出した。
これに対して母親が抗告して高裁で審理されることになりました。
高裁の判断
高裁は、間接強制を求める父親の申立を権利の濫用として却下しました。内容は分かりやすくするために改変しています。
「令和2年12月から令和3年5月までは、当事者の了解に基づき直接的面会交流の代替としてビデオ通話の方法により相手方と長男の交流が実施されており、本件申立がされるまでの間において、本件条項に基づく父親と子どもらとの面会交流が実施されなかったのは令和3年4月の実施予定分のみであった。・・・」
「本件において認められるこれらの事情を総合考慮すると、上記のとおり本件条項に基づく令和3年4月実施予定分の面会こうりゅうが実施されなかったことのみをもって、母親に本件条項が定める子どもらを父親と面会させる義務の不履行があったと評価することは、極めて酷であるから、こうした状況において、母親に対して本件条項が定める義務の間接強制を求めることは、過酷執行に当たり、権利の濫用として許されないというべきである。」
解説
率直な感想としては、12月から4月までまだまだ新型コロナウィルスが強く恐れられていた時期にできるかぎりの面会の努力はしていたように思えます。会わせてほしいという父親の気持ちは充分理解できますが、この時点で間接強制まで求めるのは強硬にすぎ、それでは離婚後の両親間の信頼関係構築にはマイナスの影響が残るでしょう。それ以降の面会交流が円滑にならなくなる危険があります。
一審の家裁がさっさと間接強制を認めたのにも違和感がありますが、母親はこの段階できちんと争っていたのでしょうか。短期間に簡単に決まりすぎている印象です。