高齢の資産家と婚姻届けを出したものが高裁で無効と判断された例を紹介します。令和3年3月10日 札幌高裁
事案
男性Aは、複数の会社の経営者でしたがそれを子供に譲り経営からは引退していました。今回、Aとの婚姻届けを出したBは14年くらい前に知り合ったAの取引先で勤務していた女性でした。Aは59歳のころに脳梗塞で倒れ、身体麻痺の後遺症が残りました。
平成29年12月24日、AとBは、施設のAの部屋で婚姻届けを作成しました。婚姻届けのAの署名、住所、本籍、父母の氏名などのAが記載すべき部分を全てBが代筆しました。
その婚姻届けは平成30年1月22日にBにより区役所に提出されました。
この婚姻届けが有効かどうかがこの裁判の争点です。
平成30年1月23日、Aは人工透析のためのシャント手術を受けるため入院しました。
約10日後の2月4日、Aに意識障害が見られ、脳幹萎縮著明、第3・4脳室拡大、前頭・側頭部の萎縮は軽度でした。2月7日、脳全体の萎縮が著しく、通常の生活が可能なレベルではないと医師から説明を受け、同月9日にICUに入りました。その後、徐々に回復したが2月16日の長谷川式スケールは9点でした。
裁判
この様な事情の末に、Aの子供が原告となって、Bに対して婚姻無効を訴えて裁判になりました。
地裁判決は、婚姻は有効であると判断しましたが、高裁それをひっくり返して婚姻は無効であると判断しました。判決文を読んでも高裁判決は妥当だと感じますが、地裁判決はひどい出来で一人の裁判官で判断される地裁判決の恐ろしさです。
高裁は、次の諸事情を考慮してこの婚姻届けが無効であるとしました。高裁が無効と判断した大きな理由となった事情をいくつか紹介します。
高裁が重視した事実
婚姻届はAの署名欄も含めて全てBが書いている。
婚姻届の証人欄も、その承諾を得ることなくBが書いている。
Aは婚姻届提出の当時、入院生活が前提とされ、婚姻生活を送り得る健康状態ではなかった。
BはAの死後まで、Aの年金受給口座からAの年金を振込当日にほぼ全額引き出した。
BはAが危篤状態でICUに入った翌日に車椅子を使用するAが車椅子のままでは乗車できない仕様の新車を570万円で注文した。
これらの事実(紹介はしていませんが他にもあります)から、Aには婚姻意思がなかったので婚姻届は無効であると高裁は判断しました。
婚姻届の無効、これは離婚届の無効や遺言の無効などと似ている事件の一つです。
事例を見ると、離婚や婚姻というよりは、高齢で独身の認知症患者との婚姻を利用して相続財産を得るという相続争い事件の一つかもしれません。