協議離婚と公正証書

離婚に公正証書を利用する理由

離婚そのものは離婚届を役所に提出することで行います。離婚のときに公正証書を利用するのは、離婚に伴って慰謝料、財産分与、養育費などの金銭的な取り決めをしたときにその約束を明確にし、同時に法的に効力の強いものとするためです。 公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書です(公証人法第1条1号)。

公正証書はきちんとした手続で作成されるために文書の信用性が高く(証明力が強い)、色々な法律で特に高い効力が認められています。その中でも、金銭を支払うという約束については公正証書にしておくだけで、後日、 裁判をしなくても強制執行が可能になるという強い効力があります(民事執行法第22条は、「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(5号)」を、強制執行を行うための債務名義と認めています。)

離婚のときに公正証書を利用するのは、慰謝料、財産分与、慰謝料といった金銭的な約束について、将来、約束を破って払わなくなったときにすぐに強制執行ができるという強い効力を持っているからです。 ただし、すぐに強制執行できるという効力が生まれるためには、その約束を公正証書にするだけではなくその公正証書の中に執行認諾約款が入っていることも必要です。まあ、これは公証人の方がよく知っていますので(公正証書を作る目的の大きな部分がここにあるので)、公正証書を依頼する人が心配する必要はありませんが。

公正証書で強制執行できないこと

公正証書は金銭の給付ではない約束、たとえば建物や土地の明渡という約束については債務名義としての効力を持ちません。ですから離婚に伴って建物や土地の明渡といった約束をするときには、公正証書にしても強制執行することはできません。

公正証書が離婚の裁判で有利な点

文書が民事裁判の証拠となるときは、その文書の成立の真正の問題と、文書の記載内容の問題という二つの問題があります。公正証書は公文書なのでその成立の真正立証が容易となります(民事訴訟法228条2項 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。)。

文書の内容の証明力についても、公正証書は公証人がその事実を確認したうえで作成するのでとても信用性が高いというメリットがあります。つまり、後で「そんな約束はしていない。」と裁判で争われても、公正証書がとても強い証拠になるので、離婚裁判でも利用する実益はあります。

離婚条件を公正証書にするときの注意

離婚条件を公正証書にする前提として、慰謝料、財産分与、養育費などについて、離婚する双方で合意が出来ていることが必要です。公証人の仕事は公正証書を作るだけで合意内容の仲介はしないのです。離婚条件についての合意が出来ないときは弁護士に依頼することです。

離婚条件の合意をするときは、合計で〇〇円払うというのではなく、支払うお金の性質をきちんと決めておくことが必要です。たとえば、分割で毎月5万円を払うとしても、その全額が養育費なのか慰謝料なのか財産分与なのか分からないのでは困ります。もし、5万円の中に養育費と慰謝料が含まれているのなら、慰謝料として毎月2万円、養育費として毎月3万円、というように、支払う(受け取る)金銭の金額だけでなく性質も明確にしておくことが大切です。離婚条件を公正証書にする前にこういう点まで決めておく必要かあります。

調停離婚や和解離婚の場合

調停で離婚した場合には家庭裁判所が「調停調書」を作成します、和解で離婚したときは家庭裁判所が「和解調書」を作成します。「調停調書」や「和解調書」は公正証書以上に強力な効力を持っているので、そういう場合は公正証書を利用する必要がありません。離婚条件の約束に公正証書を利用するメリットがあるのは協議離婚の場合です。また、協議離婚における離婚の経済的条件であっても、全額一括支払いの場合は、将来の支払い約束をするよりも現実に払ってもらった方が確実ですので、現実の支払いをしてもらうべきであり公正証書にするメリットがあまりありません。しかし、慰謝料を分割で何年もかかって支払うとか、まだ長期間続く養育費の約束などは公正証書にするメリットがあります。公正証書にするにはそれなりの費用も面倒もしりますので、どんな約束であっても全て公正証書にした方がいいというものでもないのです。

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