大阪高裁平成29年4月28日決定(判例時報2355)
■事案
平成23年に,父と母は協議離婚し,母が当時9歳の長女の親権者となりました。母は同じ年に再婚しました。
平成24年に,父は長女との面会交流を求めて,毎月一回の面会交流を命ずる審判が出ました。
平成25年に,面会交流の頻度を隔月に一回とする控訴審決定が確定しました。 しかし,面会交流が拒絶されたため,父は間接強制を申立て,裁判所によって,母らに「面会交流の不履行一回につき10万円の支払を命ずる決定がなされました。
平成26年,母らは,父に対し,面会交流の禁止を求めましたが,これは裁判所によって却下されました。
平成27年,その抗告審で,偶数月に一回の面会交流を認める決定がなされ確定しました。 その他にも複雑な裁判のやりとりが行われたようですがそれはもう省いて,この大阪高裁決定が下した重要な判断部分について書きます。
大阪高裁決定
裁判所で母は,未成年者が父との面会交流を拒否しているからこの債務は履行不能であり間接強制は許されないと主張しました。その点について裁判所が判断しています。 大阪高裁は,平成25年3月28日最高裁決定の事案と事実関係を比較したうえで結論を出しています。(事案は分かりやすさのため手を入れてあります)
「・・・しかし,上記事案(最高裁決定の事案のこと)における子は上記決定当時は満7歳に達していないのに対し,本件の未成年者は当時満15歳のときに行われた家庭裁判所調査官による意向調査において,父親との面会交流を拒否する意思を明確に表明し,その拒否の程度も強固である。 そして,そのような意思は未成年者自身の体験に基づいて形成されたもので,率直な心情の吐露と認められるから,その意思は尊重すべきである
(なお、父親は未成年者の意思は,頑なに面会交流を拒否する母親らの影響を受けており,本心とは評価出来ないと主張する。 しかし,仮に未成年者が面会交流に消極的な母親らの意向を聞いているとしても,意向調査の結果によれば,未成年者は,それも踏まえて自らの意思で面会交流を拒否していると認められるから,未成年者の意思を本心でないとか,母親らの影響を受けたものとしてこれを軽視することは相当でない。)
また,間接強制をするためには,債務者の意思のみによって債務を履行することができる場合であることか必要であるが,幼児のような場合であれば,子を面会交流場所に連れて行き非監護親に引き渡すことは監護親の意思のみでできるが,未成年者のような年齢の場合は子の協力が不可欠であるうえ,未成年者は父親との面会交流を拒否する意思を強固に形成しているところ,未成年者は平成29年より高等学校に進学しており,その精神的成熟度を考慮すれば,母親らにおいて未成年者に父親との面会交流を強いることは未成年者の判断能力ひいてはその人格を否定することになり,かえって未成年者の福祉に反するということができる。
したがって,本件債務は債務者らの意思のみによって履行することはできず履行不能というべきである。」 このように言った後,高裁は間接強制の申立を却下しました。
感想
高裁は最高裁判例に違反することが出来ませんから,最高裁とは事案が違う(子供の年齢が違う,7歳と15歳)という趣旨の事例判決です。 結局のところ,15,16歳の子供が面会を強く拒否しているときは,せっかく面会交流のやり方についてきちんと決めていても間接強制ができないことがありうるということになります。問題は,15歳のときの意向調査で,どうして「そのような意思は未成年者自身の体験に基づいて形成されたもので,率直な心情の吐露と認められる。」と判断できたのでしょうか?ここに最大の問題があります。子供は親の心を読んでいますから,とくに同居親の気持ちに反することは出来ません。いい子になろうとすればするほど親の気持ちに寄り添って自分の意見らしきものを言うものです。そこまで家裁の調査官がきちんと調査できていたのなら納得できるところです。