東京家裁平成28年10月4日決定
この事件では面会交流を拒否した場合に,一回につき100万円という高額な間接強制を認めた点に特徴があります(ただし高裁で減額されました)。
事案
妻は外国人で日本語での意思疎通は不十分でした。夫は日本人でした。結婚後10 年したころから夫婦仲が険悪になり,お互いに離婚訴訟を提起している状態でした。 妻と子だけで生活していたところ,夫は小学校から子を連れて帰り夫宅で家政婦を雇って同居し小学校も転校させました。
約二カ月後,妻はその小学校を探し出し,子を小学校から連れ出しました。学校から知らせを受けた夫は警察に連絡し,警察署において子は夫に引き渡されました。
夫は再び転居して子も転校させ,住所を明らかにしませんでした。このとき以後, 妻は子と面会ができていません。
妻は面会交流を求める調停を申立てましたが不成立となり審判に移行しました。 東京家裁が面会交流を認める審判を出しその抗告審である高裁も面会交流を認めました。 しかし,夫は高裁決定にしたがわず第一回面会交流に応じなかったため,妻は面会交流の間接強制を求めて家裁に申立をしました。
それに対して東京家裁は,債務者(夫)の年収が2640万円であることを考慮して,面会交流の不履行一回につき100万円という極めて高額な間接強制を認めました(後に高裁で30万円に減額されました)。
東京家裁の決定から
「債務者(夫)は債権者(妻)に対し,速やかに未成年者との面会を認めるべき義務があることは明らかであるところ,本件の経緯等にかんがみると,もはや任意の履行を期待することは困難な状況にあることから,間接強制の方法によって実現を図る必要及び理由があり,債務者の資力その他を考慮し,民事執行法172条1項により,間接強制の方法として主文のとおり定めるのが相当である。」
子供の面会拒否の意思は監護親によって歪められたものとした例
この事件の基となっている面会交流を認めた東京高裁の決定(平成28年4月14日)には,未成年者の発言について監護親によって歪められたものという判断があります。
「未成年者の上記の発言内容を見ると,連れ去りが行われない場合はとか,親権者が原審相手方に決まった場合はとかの条件設定からは,未成年者自身の考えというより紛争当事者である原審相手方(夫)の主張を受け売りするものと見ざるを得ない。
原審申立人(妻)の監護を否定的に述べる部分も,前記のとおり原審申立人が未成年者を連れ出した期間中のそれに限局されているという特色がある。これらの点からは,原審相手方が未成年者を監護中に原審申立人に関する否定的情報を与え続けたことで,未成年者の認知が歪んでしまったことが認められる。
なお,未成年者は,自分が成人に達するまで面会交流には応じたくない旨の手紙を提出しているが,上記の点に照らし,また,原審相手方か,未成年者に対する再度の調査を拒否していることなどにも鑑みると,上記の手紙が未成年者の現在の真意を表すものとは解しがたい。」
感想
子供は自然と親の顔色を見るものです。3歳にもなると親の気持ちを見抜いています。親の気持ちにそうように行動することがとても多いです。ですから小さな子供と同居している親の影響力は絶大です。子供が大きくなると,今度は(元)配偶者に対する悪口を子供に吹き込みます。自分が正しいと信じているからそれが悪いことだとは全く思ってもいません。子供に正しいことを言って何が悪いか?という感じです。夫婦関係の悪化によって自分が精神的に苦しいから,(意識的に又はペ意識に)一番身近にいる子供を自分の味方にしようとします。こういう親がとても多いことが残念です。
人と人との問題(夫婦間の問題)は一方が絶対的に(100パーセント)正しくて、もう一方が完全な間違いというわけではありません。それぞれに多少なりとも言い分のあることが大部分ですし,もし多くの人に意見を求めたら絶対に正しいと思っていた自分の方が分が悪いかもしれません。人と人との問題は,そういう相対的なものなのです。「もしかしたら自分の方が間違っていたかもしれない。」と時々見直すことです。
これを前提にすると,子供との接し方も決まってきます。子供は本来,両親のどちらも大好きなものです。その子供に対して親の悪口を言うことは子供の心も傷つけることになります。夫婦間の問題に子供を巻き込まないように配慮する,そのためには配偶者の悪口は子供に聞かせないことです。