有責配偶者からの離婚請求

有責配偶者からの離婚が認められる条件

不貞行為をした夫や妻(有責配偶者)からの離婚請求は,基本的に認められにくいものです。不貞行為をすることで自分が離婚の原因を作っておいて,それで離婚したいという身勝手な行為は裁判所が認めないということです。したがって不貞行為があった場合は、不貞をされた配偶者の方は離婚することができるけれども、不貞をした配偶者は離婚請求できないことになります。

しかし,不貞をした者からの離婚請求が永久に認められないというものでもありません。非常に厳しい条件を満たした場合は認められることがあります。まず,(1) 相当に長期間の別居という事実、少なくとも数年間(5~6年は必要と思った方がいいでしょう)の別居期間が経過していることが前提として必要です。さらに,(2) 小さな子供がいないこと。子供が大きくなればなるほど離婚しやすくなるでしょう。(3) 離婚しても相手の配偶者の生活が過酷になったりしないこと。ここに3点あげた,こういう条件を満たすことが必要です。長期間の別居という事実があると、この夫婦は二度と元には戻らない、婚姻関係は破綻しているという新たな離婚原因が作られていくことになります。それにプラスして不貞した者には一定の責任を負担してもらうことになります。

また,通常は離婚の前に別居の状態が長期間続くことになりますが,その間は婚姻費用の支払い義務があり,そういう家族に対する義務をきちんと果たしていくことも必要です。自分で離婚原因を作りました,家を出て行きました,婚姻費用は払いたくないから払わない,そういう身勝手な行動に対しては裁判所は厳しく判断するのです。

有責の場合は相手方配偶者の同意が必要

そうすると,不貞行為をした人(有責配偶者)が,数年の経過を待たずに、もっと早く離婚をするためには,相手方配偶者の同意が絶対に必要となります。相手が離婚に同意してくれるだけの条件を提示せざるをえないという弱い立場になるので,相手の要求を飲むしかないということにもなりやすくなります。そして,相手方配偶者の同意が得られないときは,少なくとも数年は離婚できないことになります。

また,数年後に離婚請求をする,数年間は我慢するにしても,それまでの間,きちんと別居中の相手方配偶者や子供の生活費を負担しておかなければいけませんし,離婚後の生活保障も考えておく必要があります。数年経過すると証拠も散逸してしまいますから(ラインやメールも消えてしまう),別居にいたった原因についてもきちんと立証できるようにしておく必要があります。不貞行為というあまり良くないことをして離婚に責任があるのですから,別居後の家族の生活費は払わなくてはいけません。別居している子供との面会や子供の世話の分担という問題も残りますが,これは親としてきちんと義務を果たすべきであると同時に,別居中の子供の面倒をみたことを相手から婚姻が破綻していない理由として後に主張される可能性も考えておかなければいけません。有責配偶者からの離婚にはこういう複雑な問題が出てきます。すぐに離婚請求できない不利な立場ではありますが一度弁護士に相談した方がいいでしょう。

不貞行為の場合は,このように問題が多く複雑になってきますが、不貞行為をされた方は絶対に離婚に応じないのかというと,そうでもありません。離婚するのは仕方ないと考える人も意外と多いものです(愛想を尽かしているのかもしれませんが)。ただし,離婚について相手の同意を得るためには,それまでに既に夫婦喧嘩をしているでしょうが,あまり相手をひどく罵倒して侮辱するようなことは避けておいた方がいいでしょう。離婚になると誰でも経済的な損得を考えますが,お金だけではなく最後は気持ち(感情)が大きいものです。結局は気持ち(感情)と金銭が最大の問題で,そこに子供の問題がさらに関係してくるものです。

不貞行為の時期と有責性

夫婦の婚姻関係が何か他の原因ですでに破綻してしまった後に,夫婦の一方が他の男女と性的関係に入った場合,その不貞行為によって婚姻破綻したということではないので有責配偶者からの離婚請求ではないということがありえます。そうなると,有責配偶者からの離婚請求ではなくなるので、ずっと離婚も認められやすいことになります。しかし、そのためには他の男女と性的関係に入った配偶者が、その当時はすでに婚姻破綻の状態であったという事実を裁判で立証しなくてはなりません。

裁判は正しい方が勝つのではなく,有利な証拠をたくさん持っている方が勝つものです。婚姻関係が過去に破綻していたという事実を証明する証拠が充分にないと苦労することになります。そこで,夫婦仲が悪くなっているときも、できるだけ他の男女との性的関係は控えられることを勧めます。

偽日記による被害

婚姻破綻の原因を立証するものとして,よく日記やメモが使われます。しかし,最近ではそれを悪用して偽の日記をつけるという例があるといいます。とくに自分が不貞行為をして離婚したいときに相手を有責とするためにDVを受けたという偽日記があるといいます。こういう偽日記による被害を防ぐためには,そういう目的のためには汚い手段も使う人物なのかどうか,離婚を考えていないかどうか,不貞行為をしていないかどうかなど,を冷静に見極めることが大切です。数年間一緒に生活してきたという情を切り離して,冷静に,相手の性格や人柄などを判断することです。対策はそれからです。

対策としてはこちらも正しい日記(記録)をつける。動画や録音をする。これは夫婦喧嘩のときの動画でなくても、家族で遊びにいったときの楽しい動画があると家族関係が悪くなかったことの証拠になります。気軽に動画を残しておくだけでも役に立つことがあるのです。