離婚などの家事事件に関する法律問題に対して弁護士が回答するときに難しい点があります。それは、規範が必ずしも明確ではない場合があるという点です。規範というのはその法律問題に適用される法的なルールで、第一には法規(憲法、法律、条例など)が規範となり、次に最高裁の判例が規範となります。ところが、家事事件の問題については、法律も最高裁の判例も明確ではなく、ただ下級審の先例があるばかりという場合が少なくないのです。もともと法律というのは、いろいろな場合にうまく適用できるようにするため、あまり細かく限定して定めていません。そこで法律の解釈(法律の適用範囲)という問題が出てきます。その法律解釈の問題に、最終的に決着をつけるのは最高裁の判例なのです。ところが、最高裁までいかない事件が多いのです。過去に現実の事件で紛争になると、家庭裁判所の審判や判決、地方裁判所や高等裁判所の判決で決着がつきます。当事者がそういった審判や判決まででそれ以上争おうとしなければ、その事件は最高裁にかからないので最高裁の判例は生まれません。
家裁、地裁、高裁といった下級審の裁判所が出した判決はその事件では絶対的な効力を持ちますが、それ以降の事件も拘束するような効力はなく、もし後に、同様の事件が最高裁までいってら覆される可能性もないとはいえないので規範性が弱いのです。法律家にとっては法律と最高裁の判例だけが本来の規範なので、正確に説明しようとすると、下級審の先例はこうですよ、こういったケースでは大体こう判断されますよ、とまでは言えても、法律的な規範の観点からは絶対にそうなるとまでは言えず、どうしても歯切れの悪い部分が残りやすいのです。もちろん、法律上明らかであったり、判例上明らかな場合も多いのですが、そうでない場合もあるということです。下級審の先例であっても積み重ねられたものにはそれなりの重みがあるので、それらを参照してできるだけ正しいアドバイスになるように心がけています。