■日常生活で起こる事件
今回は、日常生活で、偶然、遭遇してしまう可能性のある事故や事件のとき、裁判所でどのように判断されたかを紹介します。ただし、これは一例にすぎませんので、具体的事情によって結論は異なる可能性があります。
●ケース1:駅のホームから階段を降りようとしたら、階段を駆け上がってきた被告に正面衝突されて尻餅をつき、腰椎圧迫骨折をした。
このケースは、事故態様について原告と被告の言い分が大きく違っていましたが、裁判所は、客観的事実から、ほぼ原告が主張する事故態様を認めました。そして、電車に乗るために、階段を駆け上がってきた被告の過失が100%であるとしました。この階段には左側通行を示す標識があり、原告が右側通行になる位置で衝突が起きましたが、裁判所は「混雑時であればともかく、本件事故発生時には階段が混んでいたわけではないのであるから、そのことだけで原告に本件事故発生についての過失があるということは相当ではない」と過失相殺を否定しました。(横浜地裁平成21年1月15日判決)
●ケース2:飲酒酩酊した女性(32歳)が、市道の転落防止柵を超えて、3m下の側道に転落。頸髄損傷し1級後遺障害を残した。
市道は市が管理していますが、道路などの公の営造物が本来備えるべき安全性を欠いているときは、管理に瑕疵があるとして、地方自治体などが責任を負うことがあります。この事件では、古くて非常に低い柵があったのですが、「本件市道がA駅前の夜でも人通りの多い場所にあることからすれば、仕事に疲れたり、酒に酔ったりして通るなど、多様な市民が通行することが当然に想定されるのであり、本件市道は、そうした多様な市民が安心して歩行するに足りるA駅前にふさわしい安全性を備えているべきものと考えられる。本件柵は本件市道において通常想定される多様な歩行者の本件側道への転倒の危険性を十分に防止するに足りるものではなく、本件市道は、通常有すべき安全性を欠いていたものというべきである。」として、市の責任を認めました。ただし、原告が事故前の7時間にわたってビールを中ジョッキで8杯のんでいたことなどから8割の過失相殺を行いました。裁判所は酒飲みに厳しく、酩酊者の事故にはこの程度の過失相殺を行うことがよくあります。
●ケース3:一緒に飲んだ友人が飲酒運転をして事故を起こした場合?
この数年、悪質な飲酒運転事故に対する社会的・法的非難は強まっています。そして、飲酒運転をした運転者の責任が重くなるだけではなく、事故の原因となった飲酒に関係する人々の法的責任が認められることが増えてきています。たとえば、同僚と一緒に飲酒した後、別れて帰宅したところ、同僚が飲酒運転をして事故を起こし、その被害者から同僚が訴えられる民事責任が認められた例があ ります。ただし、一緒に飲んだら直ちに法的責任が発生するというわけではありません。飲酒自体は何ら違法性のない行為ですし、一緒に飲酒したら必ず運転するわけでもなく、必ず交通事故が起きるというわけでもありませんから。では、一緒に飲酒した人に責任が発生するのはどういう場合かと言うと、飲酒後の運転を止めるべきだったのに止めなかったという場合です。飲酒運転を制止する義務がある人が、制止しなかったときに法的責任が認められます。飲酒運転を制止する義務が認められるのはそういう場合か?一般的には、飲酒後に運転をすることを知りつつ、飲酒を勧めるか一緒に飲酒し、運転者が運転開始時に酩酊していたり飲酒により正常な運転ができないことを認識しながら(予見できながら)、運転を制止しなかった場合です。もう少し分かりやすく言うと、車を運転してきている人に対して、酒を勧めたり、一緒に飲んだ人は、その者が酩酊していて、まともな運転なんて出来そうに無い、というときは、運転させてはいけない、運転しないように制止しないといけないということになります。
これは理屈では分かりますが、大体、友人が酩酊しているときには、既に自分も酩酊していることが多いでしょうから、制止できるかどうか?すると、結局、運転して来ている人に酒を勧めてはいけないということになります。酩酊運転者の妻や親(本人が未成年の場合)が被害者から訴えられた裁判もあります。しかし、飲酒運転を開始する現場にいなかった人に対して、飲酒運転の制止義務を認めるのは酷です。そこで、普段から飲酒運転を注意していたなどの事情も考慮したうえで、責任は認められませんでした。
■飲酒を勧めただけで刑事責任?
道路交通法65条3項は、車両を運転する恐れのあるものに、酒を提供したり飲酒を勧める行為を禁止しています。こちらは正常に運連できるかそうかは無関係ですから、簡単に飲酒運転の幇助罪が成立します。お店などを経営している方はもちろん、結婚式、二次会などお祝いの席での飲酒、会社での忘年会、新年会、花見、バーベキュー、お通夜など、酒が多くの場合に問題になりえます。運転する人には酒は勧めてはいけないし、飲ませたら乗せてはいけないということになります。飲酒と運転は切り離す。お酒が好きな人は車で行かない。もし飲んでしまったら車は置いて帰る、あるいは、代行運転を頼む。多少の費用は掛かりますが、飲酒運転で事故を起こすと逮捕される場合もあり、結果が大きいですからやめましょう。私は、最近は飲み会で飲まなくても平気なのですが、一度、すっかり車で来ているのを忘れて一口ワインを飲んでしまって・・・酔いをさましてからかえりました。
借地借家は今?
平成4年に借地借家法が施行され、同時に従来の借地法、借家法、建物保護法は廃止されました。
そこで、借地人・借家人の保護が弱くなったと誤解されている方がまだまだ多いようです。
しかし、借地借家法施行前に締結されていた契約には原則として新法の適用がなく、そのままの効力が認められています。
たとえば、借地契約更新後の存続期間について、新法では、初回更新は20年、2回目以降の更新は10年とされていますが(新法4条)、古い借地法では、堅固建物の借地権は30年、非堅固建物の借地権は20年となります(借地法5条)
また、旧法と同様の規定が新法にも規定されている場合も多いです。
具体的な問題は、それぞれについて、新法(借地借家法とその附則)が、どう定めているか確認しないと正確なことは言えませんが、一般的には、特に不利になったとは言えません。
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