宝くじと財産分与

東京高裁平成29年3月2日決定(判例時報2360)

結婚していたときに2億円の宝くじに当選し,当選金を原資とする財産が離婚のときまで残っていたとき,その財産の分与はどうなるのでしょうか。これが争われた裁判があります。 事案

夫婦には2人の子供がおり,夫が勤務して収入を得て妻に30万円程度を渡して家計をまかなっていました。夫は毎月2~3万円を小遣いとして使い,毎月2000円程度で宝くじを購入していましたが,約2億円の宝くじに当選しました。 夫は宝くじの当選金で2000万円の住宅ローンを完済し,勤務による収入を家計にあてて,当選金から小遣いを使うようになりました。その後,仕事を辞めて,当選金でトレーダーとして資産運用することに専念するようになり,妻には当選金から従前と同じくらいの生活費を渡していました。しかし,資産運用では利益が出ないために再就職し,その収入と当選金の一部を妻に生活費として渡しました。 離婚当時の財産分与の対象となる財産は,夫名義の預金が約5700万円,保険1500万円,不動産744万円,前渡金1000万円の合計約9000万円,妻名義の預金約125万円でした。

高裁の宝くじに対する判断

宝くじの当選金と財産分与に関する高裁の判断は次のとおりです。一部読みやすくするために変更しています。

「本件当選金を得た購入資金は,原審申立人(妻)と原審相手方(夫)の婚姻後に得られた収入の一部である小遣いから拠出されたこと,本件当選金の使途も,同人ら家族が自宅として使用していた本件土地建物の借入金約2000万円の返済に充て,原審相手方(夫)が勤務先を退職してからは,毎月,本件当選金を原資として生活費相当分を拠出したこと等が認められる。 そうすると,購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出され,本件当選金も家族の住居費や生活費に充てられたのだから,本件当選金を原資とする資産は,夫婦の共有財産と認めるのが相当である。

・・・ 上記対象財産の分与割合について検討すると,原審相手方(夫)名義の預貯金,保険, 不動産,前渡金等,対象財産のほぼ全部について,本件当選金が原資となっているところ,上記認定のとおり,本件当選金の購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出されたものであるけれども,原審相手方(夫)が自分で,その小遣いの一部を充てて宝くじ等の購入を続け,これにより,たまたまとはいえ当選して,本件当選金を取得し,これを原資として上記対象財産が形成されたと認められる。

これらの事情に鑑みれば,対象財産の資産形成については,原審申立人(妻)より原審相手方(夫)の寄与が大きかったというべきであり,分与割合については,原審申立人(妻)4,原審相手方(夫)6の割合とするのが相当である。」

原審(前橋家裁高崎支部)の宝くじに対する判断

この裁判の原審(前橋家裁高崎支部)は,宝くじの当選金が当然に財産分与の対象となる共有財産となるわけではなく,その一部(7割)は固有財産であるという論理構成をとりました。その部分を引用すると(簡略に変更しています),

「宝くじの法的性格及び役割に照らせば,当選した宝くじ購入資金の原資が夫婦共有の財産である家計の収入であるとしても,当然に全額が夫婦の共有財産となるものではなく,当該宝くじを購入した者には,当該当選金について一定の優位性ないし優越性が認められるべきである。 ・・・ 相手方(夫)は本件当選金を原資として,住宅ローン約2000万円を支払っており,これらの全て本件当選金が原資と認められるが,この弁済金のうち,相手方(夫)の固有財産とすべきは,その7割に相当する約1458万円となり,これは被担保債権の約6 4%に該当するから利息金を考慮しても,相手方(夫)は本件土地建物の時価の約6割に相当する金額を固有財産として有しているというべきである。」

感想

原審(家裁)は,当選金(当選金を使った資産の一部)の一定割合を宝くじを購入した者の固有資産としました。高裁は当選金(当選金を使った資産の一部)の全体を共有財産(財産分与の対象となる)としたうえで,購入者の割合を高めました。この事件では結果的に高裁の方が妻の取り分が高額になっています。 どちらが正しい考え方ということも出来ませんのでこれからもケースバイケースでしょうが,高裁決定というのはそれなりの重みは持ちます。参考判例です。