将来の退職金を財産分与で細かく認めた判決

5年後の退職金と財産分与

大阪高等裁判所平成19年1月23日判決(判例タイムズ1272)

離婚後数年程度の間に退職する場合は退職金も財産分与の対象となることが多いようです。この判決は退職金の分与について詳細に判断しました。

財産分与と関係する事実

夫は55歳,団体職員で60歳定年。夫は離婚までに30年間その団体に在職しており,夫婦の結婚期間はそのうちの15年間でした。その団体には退職金の金額について「職員退職手当支給規程」という細かな規定がありました。 裁判所は,基本的に退職金の4分の1を財産分与の対象と認めました。妻の貢献度が2分の1,総在職期間の2分の1が婚姻期間なので結局4分の1という計算です。これは一般的な考え方にそったものですが,この判決が特徴的なのは,その団体の退職金規程にしたがって細かく支払額を認めた点です。判決文の一部を紹介します(読みやすくするため変更を加えています)。

「夫は〇〇の職員として勤務し,55歳になった現在まで30年8ヶ月勤続し,定年まで勤務したとしても5年以内に退職することか見込まれる。そして,〇〇においては,職員が退職したときは「職員退職手当支給規程」に定めるところにより職員に退職手当を支給することとされている。

ここからずーっと支給規程の説明が続きます。

退職手当の金額は,基準俸給額(退職当時の本俸の額。ただし,満57歳を超えて勤務する職員については,退職当時の本俸の額と同じ57歳の誕生日の前日における本俸の額のいずれか高い額)に規程に定める支給割合を乗じて得た金額とされている。 支給割合は,勤続30年で100分の5000であり,勤続30年を超える場合は,これに勤続30年を超える勤続期間1年につき100分の100を加えるが,最大でも100分の5500を超えないこととされている。 ただし,職員が懲戒処分を受け,又は禁固以上の刑に処せられたことにより退職させられた場合には,退職手当は支給せず,自己の都合により退職する場合または規定する事由に準ずる事由により退職させられた場合には,退職手当の額から,これに100分の50以内の割合を乗じて得た額を減額することができるとされている。 また,勤続期間において厚生年金基金の加算適用加入員であったときは,勤続期間30年をこえる場合には,退職手当の額から,その額に100分の3の割合を乗じて得た額を減額することとされている。

ここからが肝心の判断部分です

以上によれば,夫が〇〇を退職したときは,夫に対し退職手当が支給されることにはほぼ確実な見込みがあるといえる。そして,退職手当には勤労の対価の後払いの性質があり,かつ,婚姻から別居までの期間は15年5ヶ月あまりで,妻が,その間, 専業主婦として,夫の勤務の継続に寄与してきたと認められることからすると,夫が支給を受ける退職手当には,少なくともその一部には,夫婦が共同して形成した財産としての性質があり,これを考慮して,退職手当の支給額の一部を財産分与することが相当と認められる。

しかし,実際に支給される退職手当の額は,なお,定年まで5年程度の期間があることを考えると,それまでの間に退職手当の算定基礎である本俸が変動することにより,あるいは退職事由の如何により,相当程度変動する可能性が残されている。

ちなみに,規程では,自己都合退職の場合,定年退職の場合の2分の1程度に減額される可能性もある。さらには,退職手当に関する制度自体に変更が生ずる可能性もないとはいえない。

財産分与として将来支払われる金額の4分の1と決めた

そうすると,本件の場合において退職手当を財産分与するについては,あらかじめ特定の額を定めるのではなく,実際に支給された退職手当の額(退職手当に係る所得税及び住民税の徴収額を控除した額)を基礎として,退職時までの勤続期間に基づいて定まる割合を乗じて得られる額とすべきである。

そして,この割合は,後に詳述するとおり,実際の支給額のうち勤続期間30年に対応する額に,勤続期間30年分の退職手当額についての妻の寄与割合4分の1を乗じた金額とすべきである。

判決はこの後,将来の退職時期によって変動するという退職手当支給規程にそった細かな退職手当財産分与計算式を示しています。

この判決は,夫に将来退職金が支払われたときは,妻に財産分与として(特定金額ではなく)一定割合の金額を払えと命じた点に特徴があります。

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