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親権者と監護権を分属させた審判例

投稿日: 2020年1月18日 

親権と監護権を分属させた例(福岡家裁平成26年12月4日審判 判例時報2260号)

 

(事案)
夫婦が別居し、当初は子どもを一週間毎に夫婦が交代監護をしていましたが、母が月に3回の面会交流を約束したことから当分の間母を監護者と定める暫定的な合意をしたところ、母が子を連れて東京から九州に転居してしまい月に3回の面会交流が事実上不可能となってしまいました。その後、面会交流ができなくなり、調停で離婚は成立したものの詳細に決めた面会の約束が履行されなくなりました。
父は子との面会交流を実現するためにさまざまな手続きを利用しましたが、母によって拒否されるなどしたため、親権者の変更を家庭裁判所に申し立てました。

 

(審判の内容)
次にこの審判で示された家庭裁判所の審判の内容について参考となる部分を紹介します。
「ア 面会交流を確保することの意義について
 双方の親と愛着を形成することか子の健全な発達にとって重要であり、非監護親との面会交流は、非監護親との別離を余儀なくされた子が非監護親との関係を形成する重要な機会であるから、監護親はできるだけ子と非監護親との面会交流に応じなければならず、面会交流を拒否・制限しうるのは、面会交流の実施自体が子の福祉を害するといえる「面会交流を禁止、制限すべき特段の事情」がある場合に限られると解されている(細谷郁ほか『面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方-民法766条の改正を踏まえて』・家庭裁判月報64巻7号75頁参照)。
(注 ここまでが面会交流の意義を示した部分です)

 

 そして、本件において、かかる特段の事情が認められないことは明らかであるところ、申立人と事件本人との関係が良好であったことに照らせば、相手方の態度変化を促し、事件本人の申立人に対する拒否的な感情を取り除き、円滑な面会交流の再開にこぎ着けることが子の福祉にかなうというべきである。
(注 事件への当てはめです)

(なお、小澤ケース研究論文の156頁によれば、
①拒絶のプロセスに巻き込まれた子どもは、非監護親との関係が失われる結果、監護親の価値観取り入れ、偏った見方をするようになる、
②監護親が子どもの役割モデルとなる結果、子どもは、自分の欲求を満たすために他人を操作することを学習しまい、他人と親密な関係を築くことに困難が生じる、
③子どもは、完全な善人(監護親)の子である自分と完全な悪人(非監護親)の子であるという二つのアイデンティティを持つことになるが、このような極端なアイデンティティをすることは容易なことではなく、結局、自己イメージの混乱や低下につながってしまうことが多い、
④成長するにつれて物事が分かってくると、監護親に対して怒りの気持ちを抱いたり、非監護親を拒絶していたことに対して罪悪感や自責の念が生じることがあり、結果、抑うつ、退行、アイデンティティの混乱、理想化された幻の親のイメージを作り出すといった悪影響が生じるなどとされている。)
(注 面会交流を円満に実施できない場合の子どもに対する悪影響について論文を引用して詳細に書かれています)

 

イ 相手方が親権者と指定された前提が損なわれていること
 前件暫定合意及び前件調停の内容及びそれに至る経緯に照らせば、申立人が、相手方を監護者ないし親権者と指定することに同意したのは、相手方が面会交流の確保を約束したことが主たる理由であったと認められる。
 また、前件監護状況調査において、調査官は、事件本人と会えなくなるという申立人の不安は現実的なものと考えられるとの意見を示していたから、相手方には、その意見を真摯に受け止め、面会交流の円滑な実施に向けて必要な配慮を行うことが強く期待されていたといえる。
 しかるに、前記認定のとおり、相手方の言動により事件本人が面会交流に応じない事態となっており、相手方を親権者として指定した前提が損なわれていると評価せざるを得ない。

 

ウ 親権者変更以外に現状を改善する手段が見当たらないこと
 申立人は、調停や履行勧告などの法的手段や、面会交流支援機関(FPIC)を利用するなどして、面会交流の再開に向けて取りうる手段を尽くしてきたことが認められる。
そして、申立人は、本件調停事件においても、面会交流さえ確保できれは、親権者変更に拘らないとの態度を示してきたものであるが、前記のとおり、二回目の試行的面会交流は失敗し、その後も面会交流の再開の目処がたたなくなっている。
また、相手方は、面会交流をするには時期を待つしかないなどと述べ、事件本人に対して面会交流を動機づける具体的な方策を持ち合わせていない。
そうすると、申立人において、親権者変更を求める以外に、面会交流が実現しない現状を改善する手段が見当たらないといえる。
(注 もう他の手段は尽くしてきたので面会交流を実現するには親権者変更以外にないということです)

 

エ 親権と監護権を分属させる積極的な意義が認められること
子の身上監護を行うべき親に監護権を含む親権を委ねることが子の福祉にかなう場合が多いことから、親権と監護権とを分属させないことが原則であるけれども、親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情がある場合にはその限りではないと解される。
たとえば、①親権者となった一方の親の事情あるいは子の事情で、子が直ちに親権者となった親のもとで生活できず、しばらく他方の親のもとで生活させる必要がある場合や、②一般的に監護者に監護をさせながら、子の監護に重大な問題について、親権者を関与させる余地を残し、共同監護の実を挙げさせる必要がある場合などにおいて、親権と監護権とを分属させることが相当な場合がある(斉藤秀夫・菊地信男「注解家事審判法[改訂]349頁、清水節「親権と監護権の分離・分属」判例タイムズ1100号144頁参照)。
(注 親権と監護権を分属させる場合についての一般論です)

 

 この点、相手方の態度の変化を促すことにより、円滑な面会交流の再開にこぎつけることが子の福祉にかなうことは前記のとおりであるところ、そのためには、申立人に親権を、相手方に監護権をそれぞれ帰属させ、当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みをすることが有益であると考える。
当事者双方が親権を有していた交替監護の継続中においては、保育園の行事に当事者双方がそろって出席するなど最低限の協力関係はあったと認められるところ、親権と監護権を分属させることによって、少なくとも交替監護当時と同程度の協力関係を復活させることが望ましい。
申立人の相手方とが協力関係を構築することにより、事件本人を葛藤状態から開放することも、子の福祉にかなうと考える。

 また、申立人は、交替監護の開始前も可能な限り育児に関与してきたものであるし、約半年間の交替監護の期間中の当事者双方の監護状況は、甲乙つけ難いほど、ほぼ十分な監護環境が提供されていたと評されている。
調査官は、申立人の現在の監護態勢に特段の問題は認められないとして、事件本人の引渡うまくいけば、事件本人は申立人及び父方祖父母から愛情をもって監護されることが期待できるとの意見を述べている。
・・・
したがって申立人には、親権者として事件本人の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があると認められる。
(注 申立人に十分な監護能力があることを認めています)

他方、申立人は、事件本人を引き取った場合のことについても具体的に検討しているけれども、二回目の試行的面会交流の際の事件本人の反応などによれば、事件本人の引渡が実現しない可能性が高いと考えざるを得ない。
そして、子の引渡の強制執行を試みて失敗した場合の事件本人に対する精神的負担や、事件本人の申立人に対するイメージが更に悪化するリスクを軽視しえない。
また、監護者が暫定的に相手方と指定さた平成23年1月から現在まで、事件本人は相手方の単独親権下にあり、面会交流を実現できていないことを除けばその監護状況に特段の問題は見当たらないこと、事件本人は平成23年4月から福岡県内で生活し、平成26年4月からは小学校に入学したことをすると、相手方による監護を継続させた方が事件本人の負担が少ないことは否めない。 
このように、事件本人の監護を相手方から申立人に移すことを躊躇すべき事情が認められる。
(注 監護権は相手方にとどめようという判断です)

 

(注 ここからこの事件における高裁の結論部分となります)
したがって、本件においては、親権と監護権とを分属させ、当事者双方が事件本人の養育のために協力すべき枠組みをすることにより、相手方の態度変化を促すとともに、子を葛藤状態から解放する必要があること、申立人には、親権者として事件本人の監護養育の一端を担う十分な実績と能力があること、事件本人の監護を相手方から申立人に移すことを躊躇すべき事情が認められることからすると、
親権と監護権とを分属させることが子の福祉にかなうといえる特段の事情が認められ、親権と監護権とを分属させる積極的な意義があると評価できる。
 以上のとおり、相手方が親権者と指定された前提が崩れていること、親権者変更以外に現状をする手段が見当たらないこと、親権者と監護権とを分属させる積極的な意義が認められることを考慮すると、監護者を相手方にすることを前提として、子の福祉の観点から、親権者を相手方から申立人に変更する必要が認められる。」

 

(解説)
この審判はそのまま確定したようです。事件の詳細な事実を丁寧に検討したうえで下されたもので、これだけの審判を出されるともう納得するほかなく反論のしようがない気もします。家庭裁判所の普通の裁判官(審判官)にはこんな力の入った素晴らしい審判は期待できないので、これは特別な例だと思ってください。
監護親(たいていは母親)が非監護親(たいていは父親)と子どもとの面会に対して消極的になることはよくあることです。実際に会わせないということもあれば、会わせるけれども回数を減らす、子どもの前で父親に対する悪口や否定的な感情を見せて子どもの心に父親への悪感情を吹き込むなどいろいろです。
しかし、本来、夫婦は仲が悪くなっても、子どもと親との関係にはできるだけ影響させるべきではありません。子どもにとっては両親のどちらも大切な親なのです。相手の悪口(つまり子どもにとっては親の悪口)を子どもに平気で聞かせる親は、自分の感情のために子どもをいじめていることになるのです。そういう人格未熟な人間が多いのが現実です。


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