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失業した場合の婚姻費用・養育費

投稿日: 2023年10月9日  | カテゴリ: 離婚と子供の問題,養育費等

東京高裁令和3年4月21決定 判例時報2515号
別居中の夫に対して妻が婚姻費用を請求したときに夫が失業していた場合、婚姻費用はどうなるのでしょうか。この点について判断した東京高裁の裁判を紹介します。

 

事案

 

妻(29歳 子供は1歳)は、別居中の夫(34歳)に対して、婚姻費用を請求しました。
この婚姻費用請求の2カ月前に夫は勤務先を退職していました。
実は夫は警察官職務質問を受けたときに自殺をほのめかす言動をしたことから保護され、それから実家に連れ戻され、夫を診察した医師は、希死念慮があり、自殺の可能性もあり今後も内服治療は必要であると診察されて、退職していました。

 

家庭裁判所の審判

 

そういう状況で、一審の宇都宮家裁の裁判官は、夫の前年の年収約348万円の5割りの稼働能力があるとして婚姻費用の支払い義務を認めました。
家裁は、夫が妻とのいさかいが原因で精神的に不安定になり自殺企図した別居前年の8月以降も、相当期間稼働を継続していたという従前の就労状況や、精神科への通院が開始されたのは別居した年の2月以降であり、それ以前には精神科への受診はなかったという通院歴や通院期間に加え、夫については診断書によっても将来にわたって就労が困難であるとまでは診断されていなかったことなどに照らせば、稼働能力が全くないと認めることはできず、前年の2分の1の限度で稼働能力を認めるのが相当である。と判断しました。
これは、後の高裁決定と比べると相当にひどい審判です。これは高裁で完全にひっくり返されますが家裁は単独の裁判官で審判するので裁判官の当たり外れがあり怖いところがあります。

 

東京高裁の決定

 

東京高裁はまず一般的な基準を示しました。これは以前からの高裁レベルの基準です。
「婚姻費用を分担すべき義務者の収入は、現に得ている実収入によるのが原則であるところ、
失職した義務者の収入について、潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは、
就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解される。」
一審になる家裁この基準を適用しないで判断していました。
そして、高裁はこの基準を元にして事実関係につき次のとおり当てはめました。
夫は自殺企図による精神錯乱のため警察官の保護を受けそれをきっかけとして、職場を自主退職し、主治医の意見書において夫の就労は現状では困難であるとされ、夫は前記の自主退職後、就職活動をして雇用保険の給付を受けたことはなく、現状においても就労しておらず、市に対して精神障害者保健福祉手帳の交付申請をしている。
夫が自主退職した職場で勤める前には複数の勤務先で勤務した経験を有していたこと、夫が自主退職してから現在まで1年が経過していないことを考慮しても、夫において、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における妻との関係で公平に反すると評価される特段の事情があるとは認められない。
したがって、妻は少なくとも夫の現在の状態の下では夫に対し、婚姻費用の分担金の支払いを求めることはできないから、妻の本件申し立ては却下を免れない。

 

解説

 

婚姻費用調停の申し立てが8月、調停が審判に移行し家裁の審判が出たのが12月、決定が翌年の4月でした。婚姻費用の事件は早く進みますがこのくらいはかかるものです。
養育費も婚姻費用も、当事者が現に得ている実収入に基づいて算定するのが原則です。
養育費(婚姻費用)を払う義務を有する者が無職であったり低額の収入しか得ていないときは、
就労が制限される客観的、合理的事情がないのに単に労働意欲を欠いているなどの主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが養育費(婚姻費用)分担における権利者との関係で公平に反すると評価される場合に初めて、義務者が本来の稼働能力(潜在的稼働能力)を発揮したとしたら得られたであろう収入を諸般の事情から推認し、これを養育費(婚姻費用)算定の基礎とすることが許される。
これが裁判での基準です。


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