離婚における法律問題その2

離婚するときに発生する法的な問題点について第2弾となります。

離婚における法律問題その1を確認されていない方は合わせてご参照ください。

1 離婚協議書の書き方

2 家庭裁判所の離婚調停手続きの実際

3 離婚調停事件を弁護士に依頼するメリット

4 婚姻を継続しがたい重大な事由

5 婚姻費用分担請求が信義則により否定された例

6 婚約破棄と慰謝料請求

7 婚約破棄の正当な理由

8 既婚者との交際について婚約破棄ではない慰謝料が認められた例

9 既婚者との婚約破棄(東京地裁平成24年4月13日判決)

10 AのBに対する慰謝料請求

 

1 離婚協議書の書き方

一番簡単な離婚の方法は協議離婚です。

離婚の条件が離婚と親権だけというように単純ならば離婚届を書いて出すだけであまり問題はありません。

離婚と親権については離婚届けに書いてありますから。

しかし,財産分与や慰謝料,養育費など多くの問題があるときは口約束よりも離婚のときの合意内容を文書にしておいた方が安心です。

口頭での約束は離婚届けを出したとたんに破られる可能性があります。最近は交渉内容を録音する人もいますが書面にした方が確実です。

後で裁判に証拠として出すときも書面の方が出しやすいです。 書面のタイトルは「離婚協議書」「協議書」「合意書」などとし(タイトルはそれほど重要ではありません)、便箋や白紙のコピー用紙,原稿用紙などきれいな白紙を使います。

大事なことを書くのですから綺麗な紙を使うのは当然です。

筆記用具はボールペンやインク,万年筆等の一度書いたら消せないものを使います。後で消したり修正できる鉛筆ではだめです。

ボールペンでも修正可能なインクのものは使えません。
証拠としての価値が低くなってしまいます。

もし書き間違えをしたときは正式な文字訂正の方法で訂正します。つまり、間違えた文字の上に二本の直線を書いて消し、そこに訂正印を押します、そしてその横に訂正した正しい文字を書きます。

本文はパソコンで印刷してもかまいません。

日付や住所も印刷可能ですが、最低限,署名だけは自筆でなければいけません。
印鑑も本人が押しましょう。

印鑑が押してなくても署名だけあれば書面の効力はありますが、日本では大事な決め事には印鑑を使うものですから認め印でもいいので可能ならば捺印もしてもらいましょ

離婚協議書の内容

離婚協議書には財産分与,慰謝料,養育費などを書きます。

離婚することと親権については離婚届にも書くものなので離婚協議書には書かなくても問題はありません。

しかし、離婚届けを役所に提出する前ならば離婚協議書にも書いておいた方が確実です。

財産分与や慰謝料,養育費などについては,内容(金額と支払い時期)を具体的に特定して書くことが大切です。

約束であっても内容が特定されていなかったり曖昧だったときは法律的に効力がない場合もありますから,具体的に書くことはとても重要です。

とくに慰謝料について分割払いとするときは文言を正確に書かないと損をすることもでてきてしまいます。金銭支払い約束もきちんと書くのには技術が必要なのです。

そこで離婚協議書を法律的にも有効に作るためには弁護士に相談した方がいいでしょう。 専門的なことは専門家に任せた方が結局、良い結果を生むものです。

 

2 家庭裁判所の離婚調停手続きの実際

離婚(夫婦関係調整調停)の調停は管轄の家庭裁判所で行われます。

調停の管轄は相手方の住所地が原則です。調停の管轄や必要書類(戸籍謄本)などについては家庭裁判所のホームページに詳しく出ています。

離婚のための調停申立書(夫婦関係調整調停)を家庭裁判所に提出して正式に受理されると、その事件の事件番号が付きます。

事件番号が付くということはその事件を担当する具体的な調停委員会が決まり、担当書記官が決まったということです。

担当書記官は調停に関する事務的なことは全て扱いますので、質問や要望があるときは担当書記官に話しておいた方がいいでしょう。

その後、その離婚事件を担当する調停委員が決まるとその委員たちの予定を合わせて家庭裁判所から調停期日が指定されます。期日が決まるとそれは調停を起こした相手方にも通知が出されます。

これによって相手方が調停を申し立てられたことを知ることになります。 離婚調停の期日がきたときはその指定された時間に家庭裁判所に行きます。

横浜家庭裁判所本庁では指定された時間に指定された待合室に行って待つことになりますが、書記官室などで先に受付をする家庭裁判所もあります。

こういう事務的な手続きは各家庭裁判所によって違うものなので各地の実情に合わせてください。

どこの家庭裁判所でも、申立人用の待合室と相手方用の待合室が少し離れた場所に別々に用意されています。

申立人と相手方という対立関係にある当事者が待合室で顔を合わせないようにするための配慮です。

もし、激しいDVがあったので家庭裁判所で何があるか心配だというときは事前に家庭裁判所(担当書記官)に話をしておいたほうがいいでしょう。

家庭裁判所に入るときなどに偶然,顔を合わせてしまうことはありえるので会いたくないなら注意が必要です。

心配なときは家族や友人が待合室まで付き添うことは可能です。

調停室に入るのは当事者と代理人弁護士だけなので、付き添いの人は調停の場までは入れません。

初回の離婚調停では先に調停を申し立てた本人である申立人が呼ばれます。調停が始まるのでまず申立人から事情と気持ちを聞きましょうということです。

調停委員からそれまでの事情やあなたの気持ち(離婚したいか修復したいか)を聞かれますので,それまでの経過やあなたの気持ちを簡単に話しましょう。話をする時間は普通は30分です。

調停全体の時間として2時間を予定していて、申立人と相手方それぞれ各30分ずつの面談を2回繰り返す(それで全体で2時間になる)というのが一般的な調停のイメージです。

初回の調停のときだけですが、調停手続きの一般的な説明をするときは相手方と同席でいいかと聞かれることもあります。弁護士が代理人として付いているときは既に弁護士から説明されているでしょうということで省略されることもあります。

このときと調停が成立して調停内容をする時以外では一般的には調停のときに申立人と相手方が同時に同じ部屋に入って話し合うことはありません。

申立人から話を聞いたら次は相手方から話を聞く番です。

相手方からも30分くらい話を聞くことになるので、その間は待合室で待ちます。 離婚(夫婦関係調整)調停では男女二人の調停委員が担当となります。 本当は調停委員会は3人構成なのでもう一人いるのですがこれは裁判官で複数の調停委員会を兼任しているので重要な場面以外では出てきません。

裁判官をもっと増やすべきだと思います。

離婚調停は裁判の様に強制的なものではないので調停期日に相手方が出頭しないことがあります。

裁判の場合は第一回目に出頭しないと認めたことになり敗訴する場合もあるし、無視していても不利な判決を出されるだけなので誰でも出頭する(結局、出頭せざるをえない)のが普通なのです。

そういうときは裁判所(担当書記官)から相手方に電話して出来るだけ出頭するように説得してくれます。

調停の最後に申立人と相手方が次の調停までに用意してくる内容が決まります。

そして次回の調停期日を、申立人と相手方の双方の予定(都合)を聞いたうえで決めます。 こういう手続を繰り返して話合いによる解決(離婚するかどうか)を目指していきます。

離婚調停は何回までという決まりはありませんが,たとえば申立人は絶対に離婚したい,相手方は絶対に離婚しないと言い全く妥協の余地がない場合だと話合い解決は不可能として第一回目の調停で調停が打ち切りになることもあります。

離婚には応じるけれども条件次第という場合には、双方が歩み寄れるところまで調停を何回も繰り返すこともあります。

調停は大きめのテーブルに数個のイスがある普通の部屋で行われます。

テレビで見るような法廷ではありませんし傍聴もできません。離婚調停を担当する調停委員は社会経験のある男女の組み合わせとなります。

離婚調停にかかる時間は横浜家庭裁判所では30分ずつで交代して2回ずつ話を聞き合計2時間で調停を終わることが普通でしたが,新型コロナウィルスの感染が拡大していたときには約二カ月間調停(裁判)手続きがとまっていたことの影響から合計1時間30分で終わるようになっていました。

今は元に戻っていると思います。 また,感染予防対策からビニールで仕切っていたり,窓を開けるなどの工夫がされていることもあります。

離婚に双方が合意している場合は,親権と養育費・子供との面会交渉、財産分与や慰謝料などの問題について話し合いをすることになります。

財産分与の額を算出するときは、申立人と相手方双方の、預貯金通帳や有価証券(株式や投資信託),生命保険の解約返戻金を証明する保険会社発行の書類,不動産の全部事項証明書や査定書・住宅ローンの返済計画表などの資料を提出します。

離婚と同時に養育費や婚姻費用を決めるときは,源泉徴収票や給与明細などの資料の提出を求められます。 申立人の方は事前に資料を準備しておく方がいいでしょう。

 

3 離婚調停事件を弁護士に依頼するメリット

弁護士が離婚調停を引き受けたときは,調停で主張すべき内容を整理し,必要な資料の準備をするなどして一緒に調停に出席します。

弁護士が欠席して本人だけを離婚調停に出させることはありません。

依頼者だけを出してしまうと調停のコントロールができないなりますから。 離婚調停は本人出席が原則なので弁護士だけが出席することも少ないです。

ただし、医師など仕事が忙しくて休みとれない方の場合は代理人弁護士だけが出席することも可能です。

離婚調停は弁護士なしで本人だけで進めていくことも可能です。

そこに弁護士が入るメリットは,

調停が成立せず離婚裁判に進むことになったときのことを考えて対応できること,

こちらばかりを説得しようとする調停委員から本人を守ることができる(調停は双方が合意しないと成立しないので調停成立を強く目指す調停委員は説得しやすい方を説得する傾向があります。),

離婚調停では判断を迫られる場面が何度もあるものですがそのときに事情をよく知った弁護士の意見を直ちに聞くことができる,

などになります。

弁護士に本格的に離婚事件を依頼するかどうかは法律相談を受けてから決めることです。

まずは離婚について悩みを弁護士に相談してみることです。 初回法律相談料は5,000円です。

離婚法律相談のお申し込みをお待ちしています。メールか電話でどうぞお申し込みください。

 

4 婚姻を継続しがたい重大な事由

これは民法が定めた離婚原因の一つです。

不貞行為の様に特定の具体的行為をしたから離婚というのではなく,不貞行為などの民法が明示した離婚原因がない場合にも離婚を認める包括的な条項です。

婚姻を継続しがたい重大な事由とは婚姻関係が破綻し回復の見込みがないことを意味します。

「婚姻関係が破綻し回復の見込みがない」かどうかを決める要素としては,

夫婦それぞれの離婚に対する意思(離婚したいかどうか),

夫婦の間で交わされた言葉,別居期間または家庭内別居の期間(別居期間が長いほど離婚に近づきます),

別居しているときの夫婦間の交流の有無や交わされた言葉,性的関係があったどうか,

喧嘩(口論)があったかどうか,喧嘩の態様・程度,夫婦仲が悪くなった原因・理由,

未成年の子どもの有無(未成年の子供がいない方が離婚に近づきます),

婚姻期間が長いか短いか,夫婦が円満であった期間が長いか短いか,子どもとの関係,ある程度大きな子どもの場合は子どもの意思などです。

これらの事実を総合考慮して裁判所が「婚姻関係が破綻し回復の見込みがない」かどうかを裁判所が判断することになります。

このようにいろいろな事実から判断することから、離婚が認められるかどうかは家庭裁判所の裁判官によって認定が左右されます。

家庭裁判所では一人の裁判官によって裁判が行われるのが通常ですから,たった一人の,たまたま担当になったその裁判官の離婚に対する考え方によって、離婚が認められるかどうかが大きく左右されてしまいます。

仮に家庭裁判所が間違った判決を出したとしても高裁がそれを是正してくれればいいのですが必ずしも是正されるとは限りません。

これが離婚裁判の怖いところです(普通の裁判も裁判官に左右されるのは同じですが、離婚の場合は人生に与える影響が大きいので)。

離婚事件を30年以上やってきましたが,この数年で婚姻破綻の認定がどんどん緩くなってきたように感じます。

以前ならば離婚が認められないような事件でも離婚が認められるケースが出てきています。不貞行為がある場合には無理ですが、そうでなければ離婚が認められる可能性は高くなりました。

家庭裁判所の担当裁判官の個性にも左右されることと相まって現在は離婚事件の判決予測がつきにくい事件も増えてきています。 弁護士としては一所懸命にやるだけです。

しかし、裁判が進行するにつれて段々と正確な判決予測ができるようになります。裁判上での有利・不利も見えてくるのでその状況も踏まえて判決にいくか、和解するか、和解するならその条件を決めていきます。

 

5 婚姻費用分担請求が信義則により否定された例

離婚前の夫婦が別居しているときは、収入の多い配偶者に対して婚姻費用の分担を請求することが出来ます。

しかし,たとえば妻が家を出て別居になった場合,夫の側からは「妻が自分で出て行ったのだからその生活費は払わない。」と主張されることがあります。

ただ,妻の側からすると「これ以上一緒に生活することができないようにしたのは夫の責任だ。

仕方なく家を出たのだ。」という主張をされることもあり,どちらが正しいかは離婚の裁判でもしないと決められません。

婚姻費用分担調停(審判)手続きは迅速な解決が求められるので裁判の様な証拠調べや事実認定手続きをすることもできません。

そこで婚姻費用の分担では別居にいたった原因をあまり問題にしません。

よほどのことがない限り婚姻費用の分担が認められるのが普通です。

しかし、不貞行為をして別居した妻からの婚姻費用分担請求は信義則違反だとして否定した大阪高裁の例があるので紹介します。

事案

夫婦には子供が3人いました。

高校生の長女,中学生の二女と長男の3人でした。

夫と妻は平成27年に,まず夫が家を出ました,次いで妻が3人の子と一緒に家を出て別居が始まりました。

妻が夫に対して婚姻費用の分担請求調停を起こしたのがこの事件です。

大阪高裁の決定 まず,大阪高裁は一般論として,夫婦は互いに生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負う。

この義務は,夫婦が別居しあるいは婚姻関係が破綻している場合にも影響を受けるものではないが, 別居ないし婚姻破綻について専ら又は主として責任がある配偶者の婚姻費用分担請求は,信義則あるいは権利濫用の見地からして,子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められる。としました。

つまり,「別居・婚姻破綻についてもっぱら又は主として責任がある配偶者」の婚姻費用は認められない,しかし,子どもには責任がないから子どもの養育費だけは認める,ということです。

そして,この事件では妻と男性とのSNS上の通信内容からは,単なる友人あるいは長女の習い事の先生との間の会話とは到底思われないやりとりがなされているので,これによれば不貞行為は十分推認される。

夫と妻が平成25年に再度同居した後,妻は本件男性講師と不貞関係に及んだと推認するのが相当であり,夫と妻が平成27年〇月に別居に至った原因は,主として妻にある。

そして,妻の夫に対する婚姻費用分担請求は, 信義則あるいは権利濫用の見地から,子らの養育費相当分に限って認められると判断しました。

解説

妻は不貞関係を否定していましたが裁判所はSNSの内容から不貞行為を推認しました。

そして,同居していた後に妻が不貞関係になり別居したのだから別居に至った主たる原因は妻にある,だから妻の婚姻費用請求は認められない,ということです。

責任の程度は「もっぱら又は主として」とあるので,相当に高度で一方的な場合に限られ,あいつの方が悪いという程度では駄目でしょう。(不貞行為をした)自分が悪くて別居になったのに生活費を請求するのは信義則に反する,権利濫用だと言える程度でなければなりません。

婚姻費用分担請求事件は短期間で終える事件ですから、自分に有利な立証が短期間でできるかが最大の問題になるでしょう。

 

6 婚約破棄と慰謝料請求

これは婚約破棄事件で離婚事件ではありませんが離婚事件と類似するので紹介します。

離婚するときに慰謝料がすることがあるように,婚約を不当に破棄した場合にも慰謝料が発生することがあります。婚約は結婚することの約束ですが法的保護に値する重要な約束なのです。

婚約破棄で慰謝料が発生するにはまず婚約の成立が必要です。結納などしていれば充分ですがその他にも家族友人等に婚約を知らせていたり結婚の準備をしているなどの事実で証明することになります。

婚約してから結婚をやめただけで慰謝料が発生するわけではありません。二人の合意で結婚をやめるだけならとくに法律問題は発生しません。合意でなんでも決めればすむことです。

そうではなくて正式に成立した婚約を不当に破棄した場合にそれが不法行為として慰謝料の責任を負うことになります。

また,内縁は婚姻に準ずる法律関係とされていますから内縁の不当破棄の場合も離婚と同様に慰謝料請求権が発生します。

婚約の不当破棄の場合に発生するのは慰謝料のほかに、結納金の返還や結婚式や披露宴のキャンセル料の費用負担などが考えられます。

婚約したときに結納として結納金や高価な品物を結婚予定の相手に送ることがあり,この結納金や品物は結婚が破談になったときは返還すべきものです。

しかし,結婚が破談になった原因を作った側からの結納金の返還請求は信義則上許されないとされる場合もあり得ます。原因の悪質性が問題です。

 

7 婚約破棄の正当な理由

婚約を破棄する正当な理由としては,たとえば婚約相手が他の異性と性的関係をもった場合は、婚姻後の不貞行為と同様に婚約破棄の正当な理由となります。

婚約という契約は結婚ほどは強力でありませんがそれなりに自分と相手の自由を縛るということなのです。

婚約破棄について民法に条文があるわけではないので婚約破棄の正当理由が何かというのは限定しがたいです。お話を聞いてみないと分かりません。

婚約は将来結婚しようという約束ですから婚約の解消は双方の話合いで穏やかに決めるべき事柄です。

婚約の段階で厳しく対立するようでは結婚したらもっと揉めるでしょうから。

 

8 既婚者との交際について婚約破棄ではない慰謝料が認められた例

妻子のある39歳男性が37歳女性に対し,家庭は不和で離婚協議中,君と結婚したいと何度もメールして性的関係を続け帰省先に同行するなどしていました。

結局,男性は離婚しませんでした。

既婚ではあるけれども、離婚して結婚するという約束を信じた女性がいつまでも離婚しない相手の男性に慰謝料を求めてを訴えた事件があります。(平成25年4月17日東京地裁判決)。

裁判所は既婚の男性が、女性との婚約を破棄したことは不法行為にならないと判断しました。

婚約の破棄が慰謝料を発生させるのは婚約が保護されるべき法律関係だからです,裁判所はこのケースではそれを認めませんでした。

裁判所は客観的に男性とその妻との婚姻関係が事実上破綻していた事実を認める証拠はない,婚姻中の男性と女性との間で婚姻予約が成立したと認めることはできない,としました。

既婚者である者と結婚を約束してもそれは妻から見れば不貞関係(妻に対する不法行為になります。)であって「法的に保護される婚約」としては認められないということです。普通はこういう判断になることが多いと思います。

しかし,裁判所は妻ある男性が結婚すると嘘をついて交際していた点については男性の責任を認めました。

裁判所は,当時30歳代後半だった女性が男性の言葉を信じた点に落ち度があるとしましたが,それ以上にその男性の悪質性が強かったのでしょう。

男性に不法行為責任と慰謝料支払い義務を認めました。

裁判所は,男性は女性との交際当初から離婚協議をしているという虚偽の事実や,離婚したら女性と婚姻する意思があることを繰り返し伝え,妊娠を希望する女性との間で避妊せずに性交渉を行い,嘘をついて独身女性に男性と婚姻して子供を養育することができるという期待を抱かせ続けながら性交渉を伴う原告との交際を続けた。

虚偽の事実を告げて女性を欺罔し真実に基づく意思決定を阻害して多大な精神的苦痛を与えた行為は違法の評価を免れず女性に対する不法行為を構成するとして、慰謝料70万円を認めました。

さらにこの事件では男性が女性に暴力をふるい腓骨剥離骨折,靱帯損傷等の傷害を負わせていたのでそれに対する慰謝料として金50万円を認めました。

 

9 既婚者との婚約破棄(東京地裁平成24年4月13日判決)

これは既婚男性の結婚約束を信じて交際(妻に対しては不貞行為となる)を続けた女性が男性に対して慰謝料を請求したケースです。

未婚女性Aが未婚者限定のお見合いパーティーで男性Bと知り合いました。

Bは妻子がいるにもかかわらず独身だと嘘を言ってAに交際を申し込みました。

お見合いパーティーから半年後、ブログが原因でAとBとの関係がBの妻Cに発覚し,AはBに妻子がいることを知りCに謝罪しました。

しかし,Bから「婚姻関係がうまくいってない。」「離婚後に子供の親権が取れたら一緒に育ててくれるか?」などと言われ,Aは将来Bと結婚できるかもしれないと考えて交際を継続しました。

BはAに対しB自宅の近くに引っ越して欲しいと言いAはB自宅近くのマンションに引っ越しました。

Bは実際にはCと離婚する意思はなかったのにAとの交際を継続するため子供が10歳になるまでに離婚すると子供の親権は母親となってしまうからそれまでは離婚は難しいが,その後に離婚する,と言ってペアリングを贈ったり,写真結婚式をあげるなどしました。

BはAと頻繁に会っていましたが,Cに対してはAとは別れたと言い,自宅にほぼ毎日帰宅し,土日は自宅で過ごし,朝食を家族3人でとり,家族旅行に出かけるなど普通の家庭生活を営んでいました。

AとBの関係は再びCに発覚しAとBはCに謝罪して今後は会わないと約束しましたがその後もAとBは男女関係を続けました。

AはBと区役所に行って氏名欄に愛称を書き入れた婚姻届をBからもらい離婚届の用紙をBに渡し氏名欄にBの名前,離婚する日を平成27年5月3日と記載してもらったりしました。

AとBが出会ってから4年後AとBが公園で抱き合っていたところをCに見つかり,CからAと別れることを強く申し入れられたことからBはAと離別することを決意しました。AはBが勤務する会社の人事部を訪問して相談しBは同社を退職しました。

未婚女性Aが不貞相手Bに対して慰謝料120万円を請求して訴え,妻CがAに対して慰謝料300万円を請求して訴えました。

この二つの事件を併合審理して出された判決です。

 

10 AのBに対する慰謝料請求

Aは,Bが未婚と信じていたときまでは被害者的立場でしたが(既婚と知らなかったので法的責任はありません),途中でBが既婚であると知った後はCに対する不法行為(不貞行為)となります。

B側は,自ら不法行為をしていた者が慰謝料を請求するのは信義則に反する,あるいは不法原因給付の法理を類推してAは法で保護するに値しないと主張しました。

裁判所はAのBに対する慰謝料請求を認めました

裁判所は,BはAに対し、独身であると虚偽の事実を申し向けてAとの男女関係を開始し,既婚者であることが知られた後は自己の欲求を満足させる目的でAとの男女関係を継続するために離婚する意思もAと結婚する意思もないにもかかわらずAをしてBと将来結婚できるものと誤信させてAとの男女関係を継続したものであるから,Bの行為はAに対する不法行為を構成し慰謝料を払う義務がある,と判決しました。

裁判所は,信義則違反や不法原因給付の法理の類推というBの主張に対して,AはBが婚姻していることを知っていたのだから将来,Aと結婚する旨の約束をして男女関係を継続することはCとの関係においては不法行為を構成する違法な行為である。

しかしながらBの行為はその違法性が極めて強いことからすればAの権利はなお法的保護に値するとしてBの主張を認めませんでした。

一般的に,裁判所は自らが不法な行為をしたものに対しては厳しく判断することが多いのですが,このケースではBが自分の家庭は守りつつAを騙して男女関係だけ継続していたことがあまりにも悪質すぎると判断したものと思われます。本当にひどい奴だと私も思います。

なお,裁判所は,妻CからAに対する慰謝料も同額の80万円を認めました。

離婚における法律問題その1を確認されていない方は、合わせてご参照ください。

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