自筆証書遺言を書く

遺言は元気なうちに書く

遺言は早めに用意しましょう。子供どうしが遺産争いで紛争となり、兄弟姉妹の仲が悪くなったらかわいそうです。遺言を相続争いを防ぐことができます。しかし、皆さん、何歳になっても自分だけは死なないと思っているのか、遺言作成を勧めても実際に書く方は少ないものです。あるいは、もっと歳をとったら書こう、大きな病気でもしたら書こう、うちは財産なんて無いから心配ないと思っているのかもしれません。でも、高齢の方々を見ていると、体調の悪化は予想外に急速に来てしまいます。体調を崩すと一人で外出できなくなり、気力がなくなりがちです。遺言を書いたからといって早く死ぬこともありません。むしろ早めに、まだまだ丈夫なうちに、一度、遺産の分け方を考えて遺言を準備しておきましょう。準備というものは何の準備であっても早めにするのが良策です。

また、遺言は一度書いても、何回でも書き直せます。とくに自筆証書遺言は、きちんと形式を守りさえすれば、簡単に、誰でも書くことができます。だから後で気が変わったら書き直せばいいだけです。ただ、不動産があったり、複雑な分け方をしたいときは、自筆証書遺言であっても弁護士に相談してください。遺言は、その内容がきちんと特定され、きちんと書かれていないと有効になりません。せっかく一生懸命考えて書いた遺言が無効になったら残念です。

夫婦での共同遺言の禁止(民法975条)

ご夫婦の仲がいいときには、ときとして、ご夫婦共同で一通の遺言を書いている場合があります。しかし、それは共同遺言といって法律で無効とされています(民法975条)。遺言は個人の財産を処分する個人的なものなので、たとえ夫婦であっても別々の用紙を使い、別々に書く必要があるのです。夫婦で遺言を同時に書くのはかまいませんが、一つの同じ用紙に二人分の遺言が書いてあるのは無効になってしまうのです。そこで、遺言は夫婦で別々に作った上で、こういう遺言をしたという気持ちや動機を「付言事項」として、夫婦で同じ文章にして残しておけば子供に気持ちは伝わるでしょう。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言を書くには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書して、印を押します(民法968条1項)。一度書いた遺言の文言を加除・変更するには、訂正した旨を書いて署名し訂正箇所に捺印するなどの面倒な手続が必要となるので(968条3項)、いっそ新しい用紙に遺言を書き直した方がいいでしょう。自筆証書遺言は加除・変更無しとする方が安全です。

遺言に使用する紙

使用する用紙に制限はないので、便箋、コピー用紙などの普通の紙でかまいません。チラシの裏のようなものに書いても法律的に無効になることはないのですが、他にも綺麗な紙がたくさんあるのに、そんな紙を使って遺言をするだろうか?という疑問をもたれてしまう可能性もあるでしょう。文房具屋で便箋を買ってくるのが普通と思います。

遺言に使用する筆記用具

筆記用具はインクを使ったボールペンなどが良く、消しゴムで消せる鉛筆などで書いてはいけません。消せないインクで書きます。インクの色の制限もありませんが、一般的に文書は黒色のインクが使われているので黒色を使うのが一般的と思います。

自書ですからパソコンやワープロ印刷は使えないのが原則です。しかし、この点は最近、法律が改正され(民法968条2項)、自筆証書遺言と一体となる財産目録を添付する場合にはその目録は自筆でなくても大丈夫です。パソコンで印字したものなどが使えます。添付した目録の全てのページに署名と捺印が必要です。このときに使う印鑑は全て共通の印鑑にした方が安全です。もしページによって使われている印鑑が違うと、印鑑の違うページは本当は偽造されたのではないか?という疑問をもたれる危険があるので印鑑は統一しておいた方がより良いと思います。

遺言に使用する印鑑

印に制限はないので実印を使う必要はありません(法律上は)。認め印で大丈夫です、有効です。しかし、実印を使った方が「大事な実印を使っているから本人が真剣に書いたのであろう。」というように信用性は高くなりやすいという効果はあるでしょう。

法務局による自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言の場合、もう一つ大切なことがあります。それは、遺言者が亡くなった後、誰かが確実に遺言書を見つけてくれることです。遺言は書いたけれども誰にも分からない場所に隠しておいた、というのでは肝心なときに役に立ちません。また、遺言が第三者によって捨てられたり、偽造、改造される危険もあります。そこで、普通はその遺言で財産をたくさん受ける人に預けておくか、信頼できる人に預けておくことになります。

この点について自筆証書遺言を法務局で保管してくれるという制度が始まっていますので、その利用も考えましょう。

遺言書の保管を申請したときに、自筆証書遺言の方式が守られているかどうかをすることになっているので、方式違反を防ぐことができます。

自筆証書遺言を法務局で保管してもらった場合には、次に説明する家庭裁判所での検認手続き不要になります。

また、遺言書の原本ではなく遺言書情報証明書を使って不動産の登記手続きが可能なのでより早く手続きを進めることができます。

家庭裁判所での検認手続き(1004条)

自筆証書遺言の場合は、遺言者が亡くなったのちに、家庭裁判所で検認の手続をとる必要があります。これは遺言の存在や状態を家庭裁判所が確認するという手続です。遺言の有効無効を決める手続ではありません。その遺言のコピーや外観などが検認調書に記録されます。

「全財産を○○に残す。」というような単純な遺言ならあまり問題はありません。簡単に作れます。しかし、複数の不動産があったり、子供が複数いてそれぞれに特定の財産を残すとか複雑になってくるときは、自筆証書遺言を自分で書くのはやめましょう。多少の費用がかかっても(普通、数万から10~30万円程度が多いです)、弁護士に相談し、公正証書遺言を作っておくことを勧めます。私も扱っていますので電話やメールで連絡してください。

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