婚姻費用と算定表
夫婦が別居しているときは婚姻費用を支払う義務があります。その金額については、婚姻費用を請求する親(子供を実際に監護養育している親)の年収と婚姻費用を支払う義務を負う親(子供とは別居している親)の年収によって決まります。大昔は、家庭裁判所で婚姻費用を決めるときに双方で「これだけ生活費がかかるんだ。」と言って実際に支払っている色々な支出の領収書を並べたり、「こんなに借金があるからそんなに払えない。」と言って住宅ローンの返済表を出したりしていたこともありました。しかし、現在では、算定表が利用されるようになったので、婚姻費用の算出も予測もとても簡単になりました。特段の事情がない限りは算定表によって婚姻費用が導きだされます。
ただし、算定表に含まれていない事情があるときは算定表から出てくる数字に修正が加えられます。 通常の生活を送る上で必要な費用は算定表の中に既に含まれていますから、公立の小学校、中学校、高等学校の教育費は特別な問題が起きません。つまり特に考慮しません。
私立高校、大学の教育費等と婚姻費用
しかし、義務教育を超えた私立高校や大学の教育費については、それをどう考慮するか大きな問題となります。婚姻費用はそもそも離婚するか同居するかまでの期間に支払われるものですから本来、暫定的な性質があるので10年後に大学に進学する費用を婚姻費用で考えるようなことは起きません。婚姻費用で私立高校や大学の学費が問題になるのは、既に私立の高校や大学に通学しているとか、すぐに入学する見込みであるような場合となります。
平成27年6月26日東京家庭裁判所審判
昨年出された審判がこの問題について参考になるので紹介しておきます。
妻(X 年収404万円)が別居中の夫(Y 年収300万円)に婚姻費用を請求しました。XY間には大学3年生の長女(成人)、大学1年生の二女がいました。
まず、どの算定表を使用するかという点について、裁判所は、長女は成人であるが大学生であったので算定表の利用に当たっては15歳以上の未成熟子として考慮するとしました。そうすると婚姻費用は2~4万円となります。
続いて二女の学費等について裁判所は、「~本件では二女が平成27年4月に私立大学に進学しているから、算定表で考慮されている学校教育費を超える部分については、それぞれの収入で按分すべきである。」と判断して3万円を加算し、Yが負担すべき一カ月の婚姻費用を7万円としました。なお、収入で按分というのは、双方の収入が約400万と300万ですから大体4対3という割合で負担するという意味です(裁判所はこういう大雑把なことではなく計算していますが)。
また、長女の学費等については、長女のアルバイト収入、奨学金の貸与、長女の年齢、Yの経済状況等を考慮して加算しないとされました。いろいろな事情をあげていますが、一番大きかったのはYの負担能力と推測されます。
借金と婚姻費用
Yは長女や二女の学費、留学費等のために借り入れた債務が存在していましたが、Xも学費等のための借入をしていることから、Yが払うべき婚姻費用からは減額しないとしました。一つの判断方法として参考になる審判例です。
子供に高等教育を受けさせることができるかどうかは、その親の考え方と経済力にかかっています。両親が離婚したり不仲でなければ、親子で話し合って進路をどうするか(大学に行くのか、専門学校か、就職か)を決めることです。今の世の中では大学に進学することが必ずしも後の人生の成功(経済的な成功を含む)につながるわけでもないので、皆が進学するから私も進学、というのではなくしっかりと人生設計を考えたうえでの進路決定をすべきと思います。